「自力で考えるには、『忘却』が必要です。忘れてしまえば知識や記憶に助けてもらえないから、頭で考えざるを得ません。忘れっぽい人ほど実は独創的で面白いことを考え出します。忘れることが大事だなんて、普通の学校教育ではいわないでしょうけどね(苦笑)」

 たとえば松下幸之助や本田宗一郎は下手な知識がなく、何事も自分の頭で考えたから成功したのだと外山氏は指摘する。

 現在のように情報過多の時代こそ、「忘れる力」で思考を整理することが大事だと続ける。

「不必要な情報が脳を占拠していれば、自力で考える妨げになります。余計なことはどんどん忘れて頭をすっきりさせれば、思わぬアイデアが浮かぶものです。『忘れる力』は、コンピューターにはなく、人間だけが持つ大切な能力です。忘れることで脳の新陳代謝をはかる必要があります」

 思考を整理するには、声を出すことも有効だ。外山氏は、積極的な「おしゃべり」を勧める。

「沈思黙考していても袋小路に入り込むばかりです。時には声を出すことも大切です。その時は、同業者同士ではなく、理系と文系、販売と庶務など、畑違いの人と話をしましょう。自分が知らない分野のことを聞けば脳が刺激されて思わぬ化学反応が起き、新しい発想が浮かぶかもしれません。おしゃべりに必要なのは『調和』ではなく『混乱』なのです」(外山氏)

 外山氏の思考力は93歳になった今も衰えない。この先、中高年が思考を整理して、よりよく生きるにはどうすべきか。最後に外山氏に尋ねてみた。

「最もいいのはおしゃべりすることです。高齢者が認知症になるきっかけは言語不足です。ケンカする相手がいればボケないけど、独りきりで声を出さないと脳は衰えます。人間は話す言葉で思考しています。話し言葉を大事にすれば、人間力が高まり、頭が良くなり、仕事もできるようになる。いろいろな経歴を持つ人たちと集い、話をすることでお互いに刺激しあって、考える力が増す。そうした経験を土台にすれば、新しい人生だって作れますよ」

 そう笑いながら93歳の外山氏はしゃべり続ける。『思考の整理学』がいかに人生を豊かにするか、外山氏の姿が物語っている。

※週刊ポスト2016年12月2日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

元工藤會幹部の伊藤明雄・受刑者の手記
【元工藤會幹部の獄中手記】「センター試験で9割」「東京外語大入学」の秀才はなぜ凶悪組織の“広報”になったのか
週刊ポスト
映画『アンダンテ~稲の旋律~』の完成披露試写会に出席した秋本(写真は2009年。Aflo)
秋本奈緒美、15才年下夫と別居も「すごく仲よくやっています」 夫は「もうわざわざ一緒に住むことはないかも」
女性セブン
小野寺さんが1日目に行った施術は―
【スキンブースター】皮下に注射で製剤を注入する施術。顔全体と首に「ジュベルック」、ほうれい線に「リジュラン」、額・目尻・頰に「ボトックス」を注入。【高周波・レーザー治療】「レガートⅡ」「フラクショナルレーザー」というマシンによる治療でたるみやしわを改善
韓国2泊3日「プチ整形&エステ旅行」【完結編】 挑戦した54才女性は「少なくとも10才は若返ったと思います!」
女性セブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
【初回放送から38年】『あぶない刑事』が劇場版で復活 主要スタッフ次々他界で“幕引き”寸前、再出発を実現させた若手スタッフの熱意
【初回放送から38年】『あぶない刑事』が劇場版で復活 主要スタッフ次々他界で“幕引き”寸前、再出発を実現させた若手スタッフの熱意
女性セブン
日本初となる薬局で買える大正製薬の内臓脂肪減少薬「アライ」
日本上陸の内臓脂肪減少薬「アライ」 脂肪分解酵素の働きを抑制、摂取した脂肪の約25%が体内に吸収されず、代わりに体内の脂肪を消費
週刊ポスト
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
女性セブン
日本人パートナーがフランスの有名雑誌『Le Point』で悲痛な告白(写真/アフロ)
【300億円の財産はどうなるのか】アラン・ドロンのお家騒動「子供たちが日本人パートナーを告発」「子供たちは“仲間割れ”」のカオス状態 仏国民は高い関心
女性セブン
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
NEWSポストセブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
建設途中の木造屋根(1月時点)
「大阪市は本気で万博を開催する気があるのか」渦巻く懸念 市内路上での禁煙決定も喫煙所設置は民間にカネをばら撒くテンヤワンヤ
NEWSポストセブン