そもそもアメリカは軍事費の約7割を中東に使ってきたが、その結果は失敗ばかりで、むしろ状況は悪化している。
たとえば2003年のイラク戦争でサダム・フセイン政権を倒してアメリカが大好きな“民主的選挙”を行ったところ、イスラム教シーア派の政権が誕生した。国民のマジョリティがシーア派だから当たり前だが、イスラム教スンニ派の盟主である隣国のサウジアラビアにとっては(シーア派の盟主イランが隣国まで攻め込んできたような)憂慮すべき状況になった。
このためサウジアラビアは過激スンニ派によるIS(イスラム国)を養成・支援し、イラクとシリアにバラ撒いた。アフガニスタンにソ連軍が進駐した時にアルカイダを支援して増殖させたのと同じ背景だ。要するにアメリカは目的の定まらないイラク戦争をやり、中途半端な撤収をすることによって現在のISによるイラクとシリアの大混乱を招いた、という構図なのだ。
そのISがトランプ政権に対してどのような動きをするかと言えば、目に見えている。家族にユダヤ教徒(長女イヴァンカ氏とその夫ジャレッド・クシュナー氏)を持つトランプ氏は、露骨にイスラム教徒を嫌っている。
しかしアメリカ国内にはすでに700万~800万人のイスラム教徒がいるとみられているので、トランプ氏が公約通りに「イスラム教徒の全面入国禁止」を実行すれば、アメリカ国内にいるISのホームグロウン・テロリストが一斉に動き出し、テロが頻発するおそれがある。そしてアメリカの影響力が弱まる中東は、今よりもはるかに不安定化するだろう。
※SAPIO2017年1月号