大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方一覧

経営コンサルタントの大前研一氏
地方議員のなり手不足問題の解決策 いっそ「議会廃止」を
 地方議会では議員のなり手不足が深刻な状況である。統一地方選を前に、経営コンサルタントの大前研一氏が議員「なり手不足」問題の解決策を提案する。 * * * 今春の統一地方選挙は、知事選挙・道府県議会議員選挙・政令指定都市の市長と議員の選挙が4月7日投開票、それ以外の市区町村の首長と議員の選挙が4月21日投開票で行なわれる。 だが、いま地方議員のなり手不足が深刻化している。総務省「地方議会・議員に関する研究会」の報告書によると、前回(2015年)の統一地方選における無投票当選者数の割合は、都道府県議選が21.9%で過去最高となり、町村議選が21.8%で過去2番目に高かった。 朝日新聞(2月18日付)のアンケートでは、全国の都道府県・市区町村1788議会のうち、議員のなり手不足が「課題」と答えた議会は38%の678議会に上った。また、日本経済新聞(1月28日付)は、過疎化や高齢化に直面する小規模自治体の議会選挙では立候補者が定数に届かない定数割れが頻発し、補選でも立候補者がゼロという事態が出始めた、と報じている。 このため、無投票や定数割れを避けようと、定数を減らす動きや議員報酬を増やす動きが出ている。さらに、自治体との請負契約がある企業役員との兼業や公務員との兼職を禁じる地方自治法の規定が立候補を阻む一因として、緩和を求める声が高まっているという。 だが、この問題はゼロベースで考えるべきである。すなわち、なり手不足の問題以前に「そもそも地方議会は必要なのか?」と問うべきだと思うのだ。 私が本連載や著書『君は憲法第8章を読んだか』(小学館)などで何度も指摘してきたように、日本の場合、地方議会にはたいした役割がない。普通、議会は法律を作るところだが、日本の地方議会は法律を作れない。憲法第8章「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」(第94条)により、国が定めた法律の範囲内で、地域の問題や実情に沿った「条例」を作ることしかできないのだ。つまり、立法府ではなく「条例府」なのである。 そういう極めて限られた裁量権しかないのだから、その仕事はさほど意味がないし、面白くもない。だから過去に地方自治体で議会と行政府が対立したケースは、首長の失言、不倫、パワハラ、セクハラ、不適切な公用車の利用や飲食費などの支出といった低俗な問題ばかりで、条例の立案や制定でもめたという話は寡聞にして知らない。 結局、地方議会で議論されている問題の多くは、土木、建設、電気工事などをはじめとする公共事業に関するもので、平たく言えば、そこに予算をいくらつけるか、ということである。このため、多くの議員がその利権にまみれることになり、行政府の職員は、そういう議員たちの“急所”を握って利権を配分している。自分たちの仕事や首長が提案する予算案、条例案にいちゃもんをつけさせないためである。 その結果、議会は行政府の意向通りに運営され、どこの地方自治体でも議員提案の条例案は極めて少なく、その一方で首長提案の議案はほとんどすべて原案通り可決されている。 つまり、地方自治体は事実上、首長と役人が運営しているわけで、地方議会は政策提案機能はもとより、行政府に対するチェック機能さえ持ち合わせていないのだ。そんな地方議会は文字通り“無用の長物”であり、税金の無駄以外の何物でもない。百歩譲って都道府県議会は残すとしても、市区町村議会は原則廃止すべきである。 地方議会に代わる仕組みを作るとすれば、住民代表によるオンブズマン(行政監察官)機関だ。地方自治体は首長と役人がいれば運営できるわけだから、行政府がきちんと仕事をしているかどうか、“悪さ”をしていないかどうかを第三者が監視する機能さえあればよいのである。そのメンバーは、裁判員制度のように住民がランダム抽選の輪番制・日当制で務めればよい。希望者を募ると、手を挙げるのは利権絡みの人間ばかりになってしまうからだ。 総務省の研究会も昨年、よく似た新たな地方議会制度の仕組みを提言している。少数の専業議員と裁判員のように無作為で選ばれた住民で構成する「集中専門型議会」というもので、そのほかに兼業・兼職議員中心の「多数参画型議会」と現行制度の三つから選択可能にする。現行制度を維持するか、新制度のいずれを選ぶかは自治体の判断に委ね、条例で定めるようにするという内容だ。しかし、この提言が実現したとしても、地方議員が自分たちの“失業”につながる「集中専門型議会」の選択に賛成するはずがないだろう。 本来、私が提唱している道州制であれば、それぞれの道州に立法権があるから、地方に根ざした問題への対応策は独自の法律を作って自分たちで決めることができる。各地方が中央集権の軛から脱し、世界中から人、企業、カネ、情報を呼び込んで繁栄するための仕掛けを作ることも可能になる。4月の統一地方選で無投票や定員割れが起きた地方自治体は、改めて議会の存在意義を問うべきである。※週刊ポスト2019年3月22日号
2019.03.14 07:00
週刊ポスト
経営コンサルタントの大前研一氏
大前研一氏、北方領土問題解決に「希望者には日本国籍付与」
 北方領土については、政府も長らく「四島返還」を強く訴えてきたが、昨年11月の安倍晋三首相とプーチン大統領の会談後から、二島先行返還を軸に進める方針へと転換された。果たして、今の路線で問題は解決できるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、北方領土問題の最適解について解説する。 * * * 歯舞群島と色丹島を返してもらうメリットはどれほどあるのか? たとえば1972年の沖縄返還の場合は、日本人が約96万人も居住していたので、非常に大きな意味があった。しかし、歯舞群島にはロシアの警備隊が駐留しているだけだし、色丹島には約3000人のロシア人が住んでいるが、日本人は1人もいない。そこを取り戻すメリットは、漁業権の範囲が拡大することくらいだろう。 私は一昨年、北海道をオートバイでぐるりと巡ったが、どこもかしこも広大な“空き地”ばかりだった。離島の利尻島、礼文島、奥尻島も有効利用されているとは言い難い。もし、歯舞群島と色丹島に加えて国後島、択捉島も返還されれば、そのぶん行政府は解決しなければならない難題が山積みとなるが、それに備えた明確な統治ビジョンが日本政府にあるとは思えない。 たとえば安倍首相は記者会見で、二島が返還された場合にロシア人の島民をどうするのかという質問に対して「理解してもらうしかない」と答え、これにロシアが猛反発した。なぜなら、ロシアはバルト三国で苦い経験をしているからだ。1991年のソ連崩壊後もバルト三国にはロシア系住民が6~30%くらい残っており、この人たちが今、いじめ抜かれているのである。 同じ轍を踏まない方策として、日本は北方四島に居住しているロシア人に「三つの選択肢」を与えるべきだと私は主張してきた。それは、(1)希望する人には日本国籍を付与する(2)ロシア国籍のままでも日本の年金や健康保険などの制度を利用可能にする(3)ロシア本土に移住したい人には費用を負担する──というものだ。そういう提案をすれば、ロシア側も受け入れやすいと思う。 これは特別な扱いではなく、戦後、日本が在日外国人に対して行なってきたことと同じである。 ただし、返還後の北方四島の統治に対するロシアの意向は“沖縄方式”だ。つまり、施政権(立法・司法・行政の三権を行使する権限)は日本に返すが、軍政はロシアが維持する、ということである。しかし、現状で四島に日本人は住んでいないのだから、日本側には施政権をもらって沖縄方式にする意味がない。 それならいっそ、平和条約締結と二島先行返還を交渉の入り口にしながら、最終的には四島をかつての北マリアナ諸島やパラオのような国連信託統治形式で日露共同の「非武装中立地帯」にするのがよいのではないか。それならアメリカも受け入れやすいだろうし、国後島の南に広がる豊穣の海での漁業も可能になる。四島とサハリン(樺太)、極東ロシアで日露がエネルギー分野を中心に経済協力を推進すれば、世界中から投資や産業を呼び込めるし、観光資源としても大きな可能性を秘めている。 安倍首相は、日本にとってあまり意味のない二島先行返還を選挙対策に利用するのではなく、どうすればそれが真の国益になるかということを考えて、平和条約を主眼としたロシアとの交渉を進めるべきである。※週刊ポスト2019年3月15日号
2019.03.08 16:00
週刊ポスト
経営コンサルタントの大前研一氏
中国が低欲望社会へ 一人っ子政策で若者の草食化も進む
 エネルギッシュで貪欲なイメージが強い中国人だが、一人っ子政策によって生まれた世代以降では、様子が異なるという。経営コンサルタントの大前研一氏が、草食化する若者たちによって“低欲望社会”と化す中国の変化について解説する。 * * * 米中貿易戦争は「一過性のものではなく構造的なもの」だが、すでに日本企業も大きな打撃を受け始めている。 たとえば、2018年3月期まで8期連続増収・5期連続増益だった日本電産が、2019年3月期は一転して減収・減益になる見通しだと発表した。同社の永守重信会長は記者会見で「尋常でない変化が起きた」「11、12月と、ガタンガタンと落ち込んだ」と説明。「米中貿易摩擦に端を発した経済の不確実性が、中国経済を中心とした世界の実体経済に深刻な影響を及ぼしてきている」「中国の次に欧州も悪化のトレンドに入っている」と指摘した。 たしかに、中国経済には急ブレーキがかかっている。 中国国家統計局によると、2018年の実質GDP(国内総生産)成長率は前年比6.6%増で2017年の6.8%増を下回り、1990年以来28年ぶりの低水準にとどまった。また、中国の31省・直轄市・自治区のうち、少なくとも23省・市・自治区が今年の域内総生産の成長率目標を昨年の目標から引き下げたという。 ただし、この急減速は米中貿易戦争の影響だけではなく、中国経済の構造的な変化も大きな要因だと思う。それはすなわち、中国の「低欲望社会」化である。 低欲望社会とは、人口減少や超高齢化、リスクを背負いたがらない“欲なき若者たち”の増加などによって経済がシュリンク(縮小)する社会のことで、私の造語である。もとは日本経済の現状を分析・解説したキーワードだが、実は私の著書『低欲望社会』(小学館新書)の中国簡体字版が現地で話題になっている。中国在住の日本人の友人によれば、いま中国も急速に日本と同様の低欲望社会になっているからだという。 その原因は、まず人口の頭打ちだ。中国政府は1978年に始めた「一人っ子政策」を2016年に廃止し、夫婦1組につき2人まで子供を持てるようにした。ところが、出生数は2017年が前年比63万人減、2018年が同200万人減となった。その結果、中国の2018年末の総人口は13億9538万人で、年間の増加は530万人にとどまった。死亡数と出生数の前年比増減幅が2018年のペースで推移した場合、早ければ2021年に中国は「人口減社会」に突入する計算になる、とも報じられている。 もう一つは、若者の“草食化”だ。「一人っ子政策」の下で生まれた子供たちの先頭は40歳になっているわけだが、前述の友人によれば、彼らは「シックスポケッツ」(両親と双方の祖父母の合計六つの財布)から金を注がれ、甘やかされて育ってきたため、競争を好まず、欲望も低下している。改革開放政策が始まって以来40年間の高度経済成長下で欲望をみなぎらせて激しく競争してきた従来の中国人とは全く異質な中国人になった、というのである。 したがって、米中貿易戦争が起きていなくても中国経済は減速していた可能性が高く、放っておくと日本と同じように低迷しかねないのである。言い換えれば、中国は現在の状況をトランプ大統領のせいにしたら対症療法しかできないので、低欲望社会化に対する根治療法(原因療法)を間違えるということだ。 世界の「工場」であり「消費大国」である中国がくしゃみをすれば、日本をはじめ世界中が風邪をひく。日本企業は「尋常でない変化が起きた」という永守会長の言葉を重大な警鐘として受け止め、警戒レベルを上げねばならない。※週刊ポスト2019年3月8日号
2019.02.25 07:00
週刊ポスト
経営コンサルタントの大前研一氏
もし大前研一氏が「ファーウェイ」のCEOならどうするか
 2018年12月、ファーウェイ(華為技術)の創業者任正非CEO(最高経営責任者)の娘で副会長兼CFO(最高財務責任者)の孟晩舟氏が、対イラン制裁に違反した商取引に関する詐欺容疑で、アメリカからの要請を受けたカナダ政府によって逮捕された。そして、ファーウェイ製品の排除を関係各国に呼びかけたのだ。中国政府の諜報活動にファーウェイが協力していた疑いが濃くなるなか、経営コンサルタントの大前研一氏が、この困難をファーウェイが乗り越える方法について考えた。 * * * ファーウェイの2017年度の売上高は実に約9兆9000億円で「BAT」と呼ばれる中国IT大手3社のバイドゥ(百度)、アリババ集団、テンセント(騰訊控股)の合計売上高をも上回っている。しかし非上場のため、その経営実態は不透明な部分が非常に多い。外国企業は中国市場への参入が難しい一方、ファーウェイやZTE(中興通訊)などは中国国内ではやりたい放題だ。それは結局、両社が政府(=中国共産党)に恭順しているからにほかならない。 今回のファーウェイ製品排除の拡大を受けて、「マスコミ嫌い」で知られる任CEOが世界のマスコミを相手に記者会見し、諜報活動疑惑を否定した。 だが、中国では2017年に「いかなる組織および個人も、国家の情報活動に協力する義務を有する」と定めた「国家情報法」が施行され、中国企業・中国人は、好むと好まざるとにかかわらず、政府の情報活動に協力せざるを得ないのだ。顔認証に関しても、その情報は政府と共有しなければならない。となれば、アメリカとその関係国が自己防衛のためにファーウェイ製品を排除するのはやむなし、ということになる。 では、もし私が任CEOだったらどうするか? 手立ては一つしかないと思う。まず、ZTEと合併して2社に分割し、1社は中国国内の事業に特化した国策会社にする。こちらは中国政府と個人情報などを共有する仕掛けを組み込んだ製品を堂々と販売する。もう1社は海外事業専門の「グローバル・ファーウェイ」にして、製品的にはノキアなどと同じく公明正大なものにする。そのボードメンバーは欧米や日本などの人材でグローバル化する(中国人だけにしない)。そこまで行かないと、ファーウェイが今後もグローバル企業として成長していくことは難しいだろう。 ただし、中国を非難しているアメリカにしても、同じようなことをやっているはずだ。NSC(国家安全保障会議)がテロ対策の名目でサーバーを監視しているし、エシュロンという英連邦主要国が共同運営する通信傍受システムもある。中国が情報通信を傍受・監視するのはダメだがアメリカはいいというのは完全にダブルスタンダード(二重基準)であり、私はどっちもどっちだと思う。 米中貿易戦争は、一過性のものではなく構造的なものであり、世界の産業構造の変化を理解しないトランプ大統領が退陣するまで続くかもしれない。※週刊ポスト2019年3月1日号
2019.02.20 16:00
週刊ポスト
経営コンサルタントの大前研一氏
韓国は「可哀想な国」 放っておいても実害なし、静観が賢明
 日韓関係に改善の兆しが一向に見えない。元徴用工訴訟、レーダー照射事件と、どちらも解決の見通しすら立っていない。経営コンサルタントの大前研一氏が、韓国との関係に対して、日本はどのように向き合うべきかについて解説する。 * * * 私は3年前、朴槿恵政権が慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」に合意したことを“雪解けの兆し”とする見方に対して、なおも完全解決からは程遠く、日韓関係の好転は期待できないと注意喚起した。その上で、「日本は急いで韓国との距離を縮める必要はなく、韓国の態度が根本的に変わらない限り、放っておけばよい」と書いた。 結果的にその“予言”は当たり、慰安婦合意は文在寅政権で反故にされたばかりか、元徴用工問題とレーダー照射事件で、むしろ日韓関係はさらに悪化している。 では、これから日本はどうすべきか? 結論を先に言えば、今回の私の提案も3年前と同じだ。安倍首相や菅義偉官房長官のようにカリカリせず、放っておけばよいのである。そう考える理由はいくつもある。◆国民に嫌われる可哀想な国 たとえばレーダー照射事件では、韓国国内のブログを見ると、マスコミ報道とは別の本音が見えてくる。「韓国海軍と海洋警察庁は北朝鮮漁船に給油か瀬取り(洋上取引)をしていたらしい」「韓国の漁船は助けないのに北朝鮮漁船は助けるのか」「国連制裁決議違反を咎められないよう、焦って自衛隊機を追い払ったのでは」などといった意見が寄せられている。 韓国世論は意外にネットの中では健全であり、多くの国民は韓国政府の対応に疑問を持っているのだ。しかし、だからこそ韓国政府はレーダー照射を頑なに認めないのだ。 また、新日鐵住金や三菱重工業が損害賠償を命じられた元徴用工問題については、韓国国内で高い関心を持っているのは一部の国民だけであり、慰安婦問題ほどには盛り上がっていない。 そもそも元徴用工は、当時の日本の給料が朝鮮半島の2倍近かったために「官斡旋」という形で募集されていた案件に自ら応募してきた可能性があるという。そうであれば、日本政府によって強制的に「徴用」されたとは言い難く、本質的な前提条件の調査・確認が必要なケースと思われる。 さらに、昨年暮れには元徴用工ら1103人が1人当たり約1000万円の賠償を自国政府に求めてソウル中央地裁に集団提訴した。文在寅政権にとって元徴用工問題は、いわば“ブーメラン状態”となって自分に返ってきているのだ。 新日鐵住金や三菱重工業だけでなく、今後も続々と日本企業が訴訟の対象になるというが、たとえ日本企業が韓国国内の資産を差し押さえられたとしても、その影響は限定的である。 たとえば新日鐵住金の場合、韓国鉄鋼大手ポスコと設立した合弁会社で保有している約234万株のうち、一部原告への賠償額に相当するとみられるのは約8万1000株と報じられている。場合によっては、提携関係を見直すという選択肢もある。差し押さえを機に、日本企業が韓国から撤収するような事態が相次げば、困るのは韓国のほうだろう。 逆に、日本の一部では韓国に対して「国交断絶」や「ビザなし渡航の制限」まで叫ぶ向きもあるようだ。しかし、それは得策ではないと思う。なぜなら、韓国国民の中には政府の姿勢と関係なく、日本に来たがっている人が多いからだ。 日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2018年の韓国からの訪日観光客は前年より約40万人増えて約754万人。これは中国の約838万人に次いで二番目に多く、総数(約3119万人)の24%を占めている。つまり、国民レベルでは「親日」が続いているわけで、断交やビザなし渡航の制限で損をするのは日本なのである。まさに“お客様は神様”であり、それを減らすような行為は国益に反するのだ。 何よりも韓国は、国を脱出したいと考えている国民が(おそらく先進国中で最も)多い国だということを念頭に置かねばならない。 すでに指摘してきたように、実は韓国人の多くは自国が大嫌いだ。なぜなら、縁故採用が跋扈しているためにカネとコネがない人間にとっては夢も希望もなく、財閥系大企業の社員や官僚にならないと豊かな生活ができないからだ。その理不尽な現実を非難する「ヘル朝鮮(地獄の朝鮮)」という言葉があるほどで、そこまで自国民に嫌われているということは、考えてみれば「可哀想な国」なのである。だから隣の日本を“外敵”にして悪く言わないとやっていられないのだ。 しかも韓国は「国民情緒法」【*】が支配しているとも揶揄される国柄だ。そういう国に対して日本側が正論で対応したり、痛いところを突いたりしたら、逆ギレされるのがオチである。【*国民情緒法/国民世論次第で判決が決まるなど罪刑法定主義が崩れがちな韓国の社会風潮を皮肉った言葉。国民情緒に沿うという条件さえ満たせば、行政・立法・司法は実定法に拘束されない判断・判決を出せるという意味】 放っておいても日本にとって実害はほとんどないし、インバウンドの4分の1を占めるありがたいお客さんなのだから、静観するのが最も賢明な選択なのだ。※週刊ポスト2019年2月15・22日号
2019.02.05 07:00
週刊ポスト
経営コンサルタントの大前研一氏
世界的に見れば大学入試に偏向的な基準があるのは珍しくない
 大学入試シーズンに突入した。昨年は、医学部を中心に、性別や出身地など、公にされていない基準で入試選抜が行われていたことが次々と発覚し問題になった。経営コンサルタントの大前研一氏は、今こそ、日本の大学入試を転換する好機であると考える。新刊『50代からの稼ぐ力』も話題の大前氏が解説する。 * * * いよいよ大学入試が本格化する。 昨年は東京医科大学をはじめとする医学部の不適切入試が大きな問題となり、文部科学省は医学部医学科がある全国81大学を調査した結果、女子や浪人回数の多い受験生を不利に扱ったり、卒業生の子供や地元出身者を優遇したりしていた9大学を「不適切入試」と認定した。 過去の入試で合格ラインを超えていた不合格者の追加合格を認めた一部の大学は、今春の募集定員を減らす方針を示したが、文科省は受験生への影響を考慮して定員超過を特例的に認めると発表。追加合格者が44人と多い東京医科大を除く8大学は募集定員をほぼ当初のまま据え置くことになった。 文科省に不適切入試と認定された大学側は「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」(東京医科大)、「医師や病床数が少ない地域の出身者を優遇した」(神戸大)、「現役のほうが伸びる」(昭和大)などと弁明しているが、なかには意味不明なものもある。たとえば順天堂大は「女子のほうがコミュニケーション能力が高く、男子を救うため補正した」というが、患者の立場からすれば、医師はコミュニケーション能力が高いほうがよいに決まっている。順天堂大の言い訳は、大学と一般社会の常識のズレを如実に物語っている。 だが、今回の不適切入試問題は、日本の大学入試を世界標準に転換する好機である。世界的に見れば、入試に“偏向的な基準”がある大学は珍しくないからだ。 たとえばアメリカの私立大学は、ダイバーシティ(多様性)の観点から、男女比率や白人、ラティーノ、ネイティブ・アメリカン、中国系、アジア系などの比率をコントロールしている。単純に入試の成績順に合格させると、人種構成が非常に歪んでしまうからである。 一例を挙げると、私の母校のMIT(マサチューセッツ工科大学)の場合、何もしなければ理数系の能力に秀でたインド人ばかりになってしまうので、それを考慮して選考している。親が卒業生で寄付金が多ければ多いほど合格できる私立大学も少なくない。州立大学やコミュニティカレッジは地元出身者優先で授業料も安い。 他の国でも同様だ。たとえばロシアの有名大学は、MITのインド人と同じ理由で、優秀な人材が多いユダヤ人の比率を密かに制限している。マレーシアの国立大学も、放っておくと中華系民族(華僑・華人)やインド系民族が多数になるため、マレー系民族(マレー人やその他の先住民族)を優遇する「ブミプトラ政策」によってマレー系民族を優先的に合格させている。 日本も、私立大学の場合は、自分たちが欲しい人材を合格させればよいのである。大学が自校のカラーに合った学生や欲しい人材を集めるためには、単純にペーパーテストの点数で合否を決めるのではなく、そうしたバイアスをつける自由度があってよいと思う。 ただし、入試のポリシーと合格基準をオープンにして透明性を担保しなければならない。 たとえば私なら、理数系と語学の能力を重視するので、入試では数学と英語の得点を2倍にして他の科目は加点しない、といった基準を設定・公表する。それが嫌であれば、その大学を受験しなければよいだけの話である。 その代わり、高校までは国語、歴史、地理、生物など全科目をカバーすべきである。それらをしっかり学ぶことは人間形成のために極めて重要だからである。 そして究極的には、入試の合否の判定は大学の事務局ではなく、弁護士事務所や会計事務所などの第三者が、大学のポリシーと基準に従って行なうべきである。マッキンゼーは新社長を選ぶ際、ディレクター以上の役員の投票で決めるが、そのプロセスは会計事務所に委託している。大学入試も、それと同様の“神聖な仕組み”にしなければならないと思うのだ。総長や事務局などが恣意的に合否を操作するのは、もってのほかだ。※週刊ポスト2019年2月8日号
2019.01.29 16:00
週刊ポスト
経営コンサルタントの大前研一氏
官民ファンド「高額報酬」「辞任」騒動が間違えていること
 日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が逮捕された件が注目を集めている昨今、役員報酬について取り沙汰されることが増えている。高額すぎると問題視されることが多いが、果たしてその議論は妥当なのか。取締役がいっせいに辞任した官民ファンド「産業革新投資機構」の報酬問題をもとに、経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。 * * * 昨年暮れ、官民ファンド「産業革新投資機構(JIC)」の田中正明社長(元三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長)ら民間出身の取締役9人全員が辞任した。経営陣への高額報酬や国の経営関与のあり方などをめぐって所管官庁の経済産業省との対立が決定的になり、三行半を突きつけた格好である。 とくにクローズアップされたのは高額報酬問題だ。報道によると、昨年9月に発足したJICは当初、経産省から経営陣の報酬総額が業績によって最大で年1億円を超える案を示され、その提案通りに報酬規定の大枠を決めた。ところが、政府内で高額報酬に対する批判が高まり、経産省は提案を白紙撤回して「報酬を3150万円に減額する」「公的資金の運用益から成功報酬は出さない」と通告。この手のひら返しに田中社長が激しく反発し、経産省と財務省出身の常務2人を除く取締役が総退陣する異常事態となったのである。 記者会見で田中社長は「経産省による信頼関係の毀損行為が9人の辞任の根本的な理由だ」とした上で、「私自身は固定部分が1550万円で、短期業績報酬部分が4000万円。ベンチャーキャピタルなどの世界では8000万円、9000万円のレベルだという調査もあり、それなりに抑えたレベルだと思っていた」と説明した。 この田中社長の指摘は間違っていない。最大で年1億円超と聞くと日本の一般サラリーマンの感覚では高額に思えるかもしれないが、そんなことは全くない。ベンチャーキャピタルの役員やファンドマネージャーは、資金の運用結果さえ良ければ、報酬はいくらでもかまわない。 たとえば、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」を創業した著名起業家のマーク・アンドリーセン氏とベン・ホロウィッツ氏は、おそらく年100億円くらいもらっているだろう。経営者は生み出した価値に見合った報酬を得る──それが世界の常識なのである。 JICに対する高額報酬批判では、経営陣の年間報酬が首相(約4000万円)や日銀総裁(約3500万円)を上回るという政府・公的機関との差も問題になった。しかし、この議論も間違いだ。むしろ閣僚や役人の給料を、もっと高くすればよいのである。 なぜか? 分かりやすい例は中国だ。中国共産党の機関紙『人民日報』(2015年1月)によると、習近平国家主席の年収は13万6620元(約225万円)にすぎない。共産党一党支配の下では公僕の給料は低く抑えられる。そのため、権限を持っている役人の汚職が蔓延するのである。 日本の場合は人事院勧告によって国家公務員の給与を民間企業の従業員の給与水準と均衡させる仕組みになっているから、中国のような構造的な腐敗はない。だが、トップクラスの給与は民間企業のトップに比べると低いので、私はもっと引き上げるべきだと思う。 ただし、条件がある。すでに本連載で述べてきたように、AI(人工知能)隆盛の時代に、最も不要になるのが公務員の仕事である。つまり、公務員の仕事の大半は決められたことをやる定型業務だから、AIやロボットへの移行を推し進めてクリエイティブな仕事を担う人だけにすれば、公務員の数は少なくとも10分の1に削減できるはずだ。それを実現するのが政治の仕事であり、それでコストを削減できたら、その仕事に見合うだけ給料を上げればよいのである。たとえば、101兆円の予算の命運を決める首相が、その1万分の1の10億円もらっても、コストを5兆円削減してくれれば安いものだ。 ところが、いま政府がやっているのはそれとは正反対のことだ。国家公務員の定年延長やマイナンバー制度など古いシステムを温存し、お手盛りでコスト(=税金)を増やす。その愚かさには唖然とするしかない。 結局、今回のJICの問題は、経済の「け」の字も、投資の「と」の字も、リスクの「リ」の字も知らない政治家と役人がファンドを作っていること自体が間違いなのだ。JICはもとより、官民ファンドはすべてさっさと廃止すべきである。※週刊ポスト2019年1月18・25日号
2019.01.17 07:00
週刊ポスト
経営コンサルタントの大前研一氏
トランプ大統領を待つ今後 民主党に彗星候補の出現も
 2019年の日本を待ち受けるのは、激動と混沌の世界情勢だ。全面的な対決へと移行しつつある米中関係、欧米に押し寄せる移民・難民による不安定化の大波、次々に飛び火する経済危機……。それらの背景には、ボーダレス化の進展とともに“壁”を求める“自国第一主義の連鎖”がある。経営コンサルタントの大前研一氏は、そうした世界の潮流に新たな変化が生じていると見る。 * * * 昨年12月の米中首脳会談で、ドナルド・トランプ大統領と習近平国家主席は、アメリカが今年1月1日から予定していた2000億ドル分の中国製品に対する輸入関税の引き上げを90日間延期することで合意し、米中貿易戦争は「一時休戦」と報じられた。 しかし、その直後にトランプ大統領は「私はタリフマン(関税の男)だ」とツイートし、通商協議が不調に終わった場合は追加関税を課す方針を示して牽制。さらに、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)」の創業者の娘で副会長兼CFO(最高財務責任者)の孟晩舟氏がアメリカの要請によりカナダで逮捕されたことで、米中関係はいっそう悪化し、報復合戦になる懸念がある。 一方、昨年のアメリカ中間選挙では、本質的かつ永続的と思われるアメリカ社会の構造変化が起きた。 まず、若者の投票率が大幅に上がったこと。4年前は21%だった18~29歳の若者の投票率が今回は31%に達し、そのうち約7割が民主党に投票したと報じられた。もう一つは、女性が圧倒的に民主党を支持したことだ。その結果、民主党から史上初のイスラム教徒やアメリカ先住民ら多数の女性議員が誕生したのである。 この若者と女性の“蜂起”で民主党が下院を制したことにより、これからトランプ大統領には三つのシナリオが待つと予想される。 一つ目は、急速な影響力の低下である。これまでトランプ大統領は、民主党を「ストローマン(藁人形)論法(※議論において相手の意見を正しく引用することなく、歪めた内容に基づいて批判する一種の詭弁)」で叩くことによってプア・ホワイト(白人の低所得者層)の支持を得てきたわけだが、その化けの皮が剥がれて急失速すると思う。 二つ目は、下院における疑惑の調査・追及だ。民主党が下院の27の小委員会をすべて押さえたので、トランプ大統領の不正や嘘の疑惑を調査できるようになった。場合によっては弾劾訴追まで行く可能性もあり、トランプ大統領の動きは大幅に制限されるだろう。 三つ目は、2016年の大統領選挙にロシアが干渉した疑惑を捜査しているロバート・モラー特別検察官の最終報告で窮地に立たされること。それをめぐって政治的・外交的な駆け引きが始まり、トランプ大統領は追い込まれていく。北朝鮮やメキシコ国境の壁などの優先順位は落とさざるを得ないだろう。 いずれにしても、トランプ大統領が再選に向かってスムーズに歩を進めていくという姿は全く見えないし、新しい政策を打ち出して支持を回復できるとも思えない。だが、トランプ依存で中間選挙を戦った共和党としては、新たな大統領候補を立てるのは難しい。したがって、2020年の大統領選で共和党は苦戦を避けられないだろう。 対する民主党は、有力な大統領候補がいないと言われているが、それは杞憂に終わるだろう。同党有力候補は1~6月の予備選挙・党員集会の後半でいきなり出てくることが多いのだ。ビル・クリントンしかり、バラク・オバマしかりである。最初から有力と目された候補者は途中で息切れしてしまい、最後まで生き残ることが難しいのである。 たとえば、中間選挙のテキサス州上院選で「オバマの再来」「未来のオバマ」と呼ばれたベト・オルークのように、まだ全国的には無名ながら若くて演説がうまい人物が彗星のごとく登場する可能性があると思う。※週刊ポスト2019年1月11日号
2019.01.04 07:00
週刊ポスト
経営コンサルタントの大前研一氏
日産の好業績を支えたのはゴーン前会長の経営手腕ではない
 自力で再建できなくなった1990年代後半の日産自動車が、回復できたのはカルロス・ゴーン日産自動車前会長の手腕だったのか? ゴーン前会長が逮捕されて以来、日産復活への貢献度についての議論が巻き起こっている。2年前、すでに彼の強欲な経営姿勢について指摘していた経営コンサルタントの大前研一氏が、日産復活の経緯について解説する。 * * * 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が有価証券報告書に役員報酬を過少記載した金融証券取引法違反の疑いで逮捕された事件は、日産の役員構成とルノー・日産・三菱自動車のアライアンス(出資比率や提携内容)がどうなるか、東京地検特捜部が容疑を立件できるかどうか、ということが今後の焦点となる。 手前味噌だが、今回の事件では私の過去記事の予想が当たったと、ネットなどで大いに話題になった。 私は今年5月の時点で、日産・ルノーの経営統合をめぐるフランス政府とゴーン氏の不穏な動きに警鐘を鳴らした。さらに、2年前にゴーン氏がルノーと日産に加え三菱の会長に就任して「3足のわらじ」を履いた際も、同業種の上場企業である日産と三菱のCEOや会長を兼務すると「利益相反」を生む可能性があるので看過されるべきではないと指摘し、ゴーン氏の報酬に対する貪欲な姿勢についても批判した。 さすがに、今回明らかになった退任後の巨額報酬や会社資金の不正な私的流用などまでは予想していなかったが、企業のガバナンスとコンプライアンスの観点から見ると、そうしたゴーン氏の“強欲”な経営姿勢が許されないことは自明だったのである。 ゴーン氏も当初の5年間は期待に応える活躍をしたと思う。「日産リバイバルプラン」を発表し、村山工場など車両組立工場や部品工場の閉鎖、グループ人員の2万1000人削減、購買コストを圧縮するための下請け企業半減といった大規模リストラを情け容赦なく断行し、2003年までに2兆1000億円という巨額の借金を完済してV字回復を成し遂げたのである。 だが、その後の日産の好業績を支えた主要因はゴーン氏の経営手腕ではない。 1990年代に経営破綻の危機に直面した日産が今日のように復活したのは、たしかに“奇跡”である。しかし、ゴーン氏は大規模リストラによるコストカットで日産の“負の遺産”を清算しただけであり、「GT-R」や5代目「フェアレディZ」などの人気車種を生み出して奇跡をもたらしたのは、もともと日産が持っていた技術力である。 その象徴が、イギリスのサンダーランド工場(英国日産自動車製造会社)だ。 私が初めて日産のコンサルティングを担当したのは、1980年代前半の石原俊社長時代である。当時、日産はイギリスで16%のシェアを持っていたため、マーガレット・サッチャー首相が石原社長にイギリスでの工場建設を要請し、用地選定や立ち上げ方などをマッキンゼーに依頼するようアドバイスした。それで私にお声がかかり、調査の結果、サンダーランドがベストと判断したという経緯がある。このサンダーランド工場が技術力と生産性が非常に高いヨーロッパ最大の生産拠点に成長し、優秀なイギリス人マネージャーを何人も輩出している。 ゴーン氏は“コストカッター”や“整理屋”としては優秀だが、日産の高い技術力なくしてはその経営手腕も発揮できなかっただろう。実際、中国市場を重視するあまり手薄になった国内市場のシェアは無残な状況である。かつてはトヨタ自動車に次ぐ2位が指定席だったのに、今や5位に凋落しているのだ。 また、もしゴーン氏が卓越した経営者であれば、ルノーも日産と同じように立て直しているはずである。だが、ルノーの経営は未だに日産の配当金や日産車の生産に頼っている。その理由は、日産のような技術力がないからだ。 そういう実態を踏まえれば、そもそもルノーと日産の関係は歪んだものだったということが分かる。今回の事件が起きていなくても、両社の歪なアライアンスは遠からず限界を迎える運命だったと言えるだろう。※週刊ポスト2018年12月21日号
2018.12.10 07:00
週刊ポスト
経営コンサルタントの大前研一氏
大前研一氏 入管法改正は国民DB制度抜きでは話にならない
 外国人労働者の受け入れ拡大のため出入国管理法の改正を政府は強引にすすめようとしている。拙速との指摘も多い今回の外国人受け入れ制度について、経営コンサルタントの大前研一氏が、何を基礎とすべきかについて解説し、批判する。 * * * 外国人労働者の受け入れ拡大に向けた出入国管理法(入管法)改正案の審議が難航している。 安倍政権が今国会最大の重要法案と位置付ける同法案は、深刻な人手不足に対応するために「特定技能1号」「特定技能2号」という在留資格を新設するもの。1号は「相当程度の知識又は経験を要する技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」で、最長5年の在留を認めるが、家族の帯同はできない。2号は「熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」で、在留期間を更新することができ、配偶者と子供の帯同も認める。政府は今国会で同法案が成立すれば、来年4月から新制度を導入する方針だ。 政府が新たな在留資格の受け入れ対象として検討しているのは、建設業、造船・舶用工業、農業、漁業、介護業、外食業、宿泊業、飲食料品製造業、素形材産業、ビルクリーニング業など14業種。受け入れ見込み人数は新制度導入初年度の2019年度が3万2800~4万7550人、2019年度から5年間の累計で26万2700~34万5150人となっている。 だが、この法案は、あまりにも場当たり的でお粗末だ。そうなったのは、これが来年の統一地方選挙と参議院議員選挙に備えた安倍政権の選挙対策でしかないからだ。人手不足に悩んでいる企業や農民・漁民などの自民党支持者から、早く外国人労働者を“解禁”してくれないとつぶれてしまう、という陳情が殺到して急ごしらえしたのだろう。 すでに私は、今年の春に政府が来年4月をめどに外国人労働者向けの「特定技能」という新たな在留資格を作ると報じられた時点で、「単に人手不足を補うためだけの極めて場当たり的、かつ、なし崩し的な政策」「人口減少期に突入している日本の労働力確保には構造的な解決策が必要、という根本的な視点が抜けている」と批判したが、この問題は国家百年の計で熟考を重ねなければならないものである。 にもかかわらず、いい加減な受け入れ制度や見込み人数で短兵急に事を進める政府も、それを批判したいがために受け入れそのものに反対する野党も、目先の議論しかしていない。 今の与野党の議論で根本的に抜け落ちているのは、「これから日本をどんな国にしたいのか」「日本人の条件とは何か」という本質的な問題である。そしてそれは、やはり私が『新・大前研一レポート』で25年前から主張しているように、全国一律の国民データベース(DB)を構築し、「日本人」がすべての行政サービスを、いつでもどこでも簡単に受けられるようにすることが大前提となる。 これまで何度も紹介してきたように、国民DBを構築した「eガバメント(電子政府)」のエストニアは、スマホ1台で何でもできる。世界のどこにいても「エストニア国民」として権利を行使することができ、選挙の投票や納税、年金、健康保険証、運転免許証、国家資格などの手続きから公共料金の支払いといったことまで可能である。 インドも「アーダール(Aadhaar)」という国民DB制度に13億人のほとんどが生体情報(指紋、虹彩など)を登録し、それによって一気にキャッシュレス社会に移行した。日本も全く使いものにならないマイナンバーではなく、生体認証付きで運転免許証、保険証、パスポートをセットにした国民DBを構築し、それを基にして外国人労働者の受け入れ制度・システムを作るべきなのだ。 ところが、いま政府がやろうとしているのは、建設業、介護業、外食業、宿泊業や農村・漁村などで外国人を“奴隷労働”させようとするものでしかない。それでは失踪する外国人労働者が増えるだろうし、社会の分断や排斥を招いて治安悪化にもつながりかねない。今回のにわか作りの入管法改正案は葬り去り、与野党が本質的な「移民」論議を深めていかないと、この国は取り返しのつかない“劣化”を招くだろう。※週刊ポスト2018年12月14日号
2018.12.07 16:00
週刊ポスト
「日米貿易戦争」が起きても日本が負けない理由
「日米貿易戦争」が起きても日本が負けない理由
「日本はまたアメリカに譲歩した」「いや、日本は粘り強く交渉している」──9月に安倍晋三首相とトランプ米大統領が合意し、農産物や鉱工業品など「物品」の関税引き下げについて交渉に入ることになった日米TAG(物品貿易協定)に対する評価が分かれている。日本への影響は大きいのか否か? 大前研一氏が分析する。 * * * 日米TAG(物品貿易協定)交渉に対する懸念が噴出している。TAGについて、日本政府は「交渉の対象は物品に限られ、サービスなども含めて関税の引き下げや撤廃を定める包括的なFTA(自由貿易協定)や、投資、知的財産権、電子商取引などのルール作りも含むEPA(経済連携協定)とは異なる」と説明し、農林水産品は過去のEPAで合意した範囲が最大限とする日本の立場をアメリカが“尊重”することを日米首脳会談で確認した、としている。 だが、アメリカ政府の認識は違う。USTR(米通商代表部)のライトハイザー代表は日本に対して完全なFTA締結を目指す考えを表明し、パーデュー農務長官もTPP(環太平洋経済連携協定)や日本とEU(欧州連合)のEPAを上回る農林水産品の関税引き下げを求める考えを示唆したのである。さらに、ペンス副大統領も「日本と歴史的な自由貿易交渉(Free Trade Deal)を始める」と演説し、FTAを視野に入れた幅広い分野での貿易自由化を目指す構えを見せている。 そもそもTAGは、日本政府の“造語”である。世界の貿易に関する協定用語には存在しない。国際間の自由貿易協定はすべてFTAと呼ばれる。実際、日米首脳会談の共同声明を見ると、「物品」だけでなく「サービスを含む他の重要分野で早期に結果が出るものについて交渉を開始する」として、投資、知的財産、不公正な貿易慣行なども交渉の対象になっている。 だが、日本政府にはアメリカと2国間のFTA交渉に応じたらTPPやEUとのEPAを上回る譲歩を迫られるという懸念が根強く、そうなれば来年の統一地方選挙と参議院議員選挙で農家の票を中心に安倍政権への逆風になりかねないため、FTAだけは避けろというのが至上命令だった。だから、苦肉の策としてTAGという“新語”をひねり出したのである。◆日本はいじめられて強くなった しかし、日本はアメリカの対応に一喜一憂する必要はない。なぜなら、歴史を振り返ると、過去の「日米貿易交渉」で日本は“全敗”しているが、結果的・実質的には負けたことがないからだ。手短に説明しよう。 日米貿易摩擦は1965年以降、アメリカの対日貿易収支が恒常的に赤字化したことによって始まり、1969年の繊維を皮切りに1970年代は鉄鋼やカラーテレビ、1980年代は自動車、農産物(コメ・牛肉・オレンジ)、半導体、コンピューターなどがアメリカ政府の標的となった。そして日本はことごとくアメリカの圧力に屈し、自主規制や現地生産の拡大などを受け入れてきたのである。今の中国と違い、日本は報復追加関税などで応酬することはなかった。 しかし、そうやってアメリカに散々いじめられたおかげで日本は強くなった。 たとえば、今や日本の自動車メーカーはアメリカで400万台を現地生産し、日本、カナダ、メキシコからの輸出分と合わせてアメリカ市場で670万台を販売している。今やアメリカの新車販売台数(1720万台)の4割近くを日本車が占めているのだ。 農産物もしかり。日本でアメリカ産のコメは影も形もない。日本のミカンは品種改良を重ねて美味しくなり、国内市場でアメリカのオレンジを圧倒している。アメリカンチェリーは安価にもかかわらず、山形のサクランボ(佐藤錦)に太刀打ちできなかった。カーター元大統領が家業としていたピーナッツも、市場開放したらアメリカ産ではなく中国産が入ってきて、むしろ千葉産の旨さが広く認識されることになった。牛肉はアメリカ産よりオーストラリア産に軍配が上がり、国内生産量も減らなかった。 唯一の例外は半導体である。日米貿易摩擦で日本は半導体の2割を輸入することになった。ところが、アメリカが作っている半導体は軍事用で、日本が必要とする民生用は作っていなかった。 そこで日本企業は窮余の一策として、韓国企業にノウハウを伝授し、韓国から輸入することにした。アメリカとの約束は「日本市場における外国製半導体のシェアを20%以上に引き上げる」ということだけで、「アメリカから」とはなっていなかったからだ。その結果、日本企業は製造方法を教えて生産委託したつもりの韓国企業に寝首をかかれ、半導体で韓国に惨敗する羽目になってしまったのである。 この歴史から学べることは三つある。【1】アメリカは政府間交渉では必ず勝つ、【2】アメリカの要求通りになっても、アメリカの産業競争力が高まった事例はない、【3】アメリカにいじめられた国の産業はグローバル化が早まって強くなるということだ。 当時のアメリカは繊維、鉄鋼、自動車などの産業が次々に雇用を失っていたため、「ジョブ、ジョブ、ジョブ」と叫びながら日本をバッシングして様々な要求を突き付けてきた。しかし、自国内で雇用を創出する解決策は提案してこないから、結果的に日本があたふたしただけでアメリカ自身の産業競争力はつかず、雇用も戻らなかった。アメリカは「貿易慣行がフェアなら、アメリカの企業や商品は勝つ」と思い込んでいるが、それは大きな勘違いなのだ。 要するに、アメリカは交渉の時は抜群の力を発揮するが、要求が通ると興味を失い、その後に成果がなくてもフォローはしないし、怒ったこともないのである。※SAPIO2018年11・12月号
2018.12.01 07:00
SAPIO
経営コンサルタントの大前研一氏
「トランプと文在寅はとんでもない大統領だ」と大前研一氏
 アメリカの中間選挙は、上院で共和党、下院で民主党が過半数を握る「ねじれ状態」になった。韓国では、国際常識では考えられない「元徴用工」への賠償を命じる判決が出されている。それら二つの国のドナルド・トランプ大統領と文在寅大統領について、経営コンサルタントの大前研一氏が、比較し解説する。 * * * 9月下旬にニューヨークで開かれた北朝鮮に関する国連安全保障理事会閣僚級会合で、日本の河野太郎外相は、従来の議論を踏まえて、北朝鮮の核を含むすべての大量破壊兵器や弾道ミサイルの「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄(CVID)」の重要性を強く訴えた。 ところが、トランプ大統領はその直後の選挙集会で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との関係について「恋に落ちた」「非常に気が合う」などと述べ、関係者を呆れさせた。 さらに韓国の文在寅大統領にいたっては、同じく9月下旬の国連総会の演説で、金委員長が非核化に向けて積極的に取り組んでいると評価し、あろうことか「今度は国際社会が北朝鮮の新たな決断と努力に前向きに応える番だ」と国連の制裁決議に反する主張を展開した。これに対し、日本の主要マスコミは通り一遍の報道で、この文大統領の演説の異常さを指摘したところは少なかった。 文在寅は、トランプとは別の意味で、とんでもない大統領だ。ソウルに無数のミサイルやロケット砲が向けられたままなのに、南北軍事境界線上の地雷や銃火器、監視所を撤去したことを“非武装化”と称して、いきなり南北統一に向かおうとしている。昨年まで核実験や弾道ミサイル実験を強行していた金委員長を「誠実で、経済発展のために核兵器を放棄すると私は信じている」と無防備に信用する発言もしている。 しかも、金委員長の祖父・金日成主席が抗日パルチザンの根拠地とし、父・金正日総書記が生まれた場所とされる「(偽りの)革命の聖地」白頭山まで行って「南側(韓国)の国民も、白頭山を観光で訪れることができる時代が来ると私は信じている」と述べたという。これは捏造された“金王朝”による独裁体制の正当性を認めたようなものであり、呆れてものが言えない。 金委員長が考えを改めたとか過去の経緯を謝罪したわけでもないのに、一方的に受け入れている。これでは、いわば“できちゃった婚”状態ではないか。 韓国人はよく「南北が一緒になれば、日本を超える」「統一朝鮮ができたら、日本人は困るでしょう?」と言う。 一般の日本人には韓国と競争しているという意識があまりないので困るも何もないのだが、結局、南北が一緒になった場合の“仮想敵国”がどこかといえば、中国やロシアのはずはないから、日本しかない。北東アジアで日韓が日本海を挟んで敵対することになる、という想定なのだろうか。 さらに、日韓関係の悪化に追い打ちをかける「徴用工問題」が起きた。韓国大法院(最高裁)が、新日鐵住金に韓国人の「元徴用工」4人に対する損害賠償の支払いなどを命じる判決を確定させたわけだが、この問題は1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決」されている。同協定に反する大法院の判決は前代未聞であり、まぎれもない国際法違反なのだ。 一方、この4人に関して調べてみると、当時の日本での給与が朝鮮半島の2倍近くあったために「官斡旋」という形で募集されていた案件に自ら応募してきたという。これは日本政府によって強制的に「徴用」されたとは言い難い、かなり本質的な前提条件の確認が必要なケースと思われる。 今の韓国大法院の金命洙長官を指名したのは文大統領だから、今回の判決に日本を“敵視”する文大統領の意思が働いたことは間違いないが、韓国は「国際法や国際条約を蔑ろにする国」だと自ら白日の下にさらしたようなものである。 トランプ大統領と文大統領の独善的な外交によって、日米韓の結束はバラバラになりつつある。米中対立の余波で日中関係が改善に向かうと見る向きもあるが、まだまだ中国の立ち位置は信用できるほどには安定していない。ここで日本は、あらためて自国の地政学的な位置を見つめ直し、新たな太平洋・極東アジアの外交および安全保障政策を根本から練り直すべきだろう。※週刊ポスト2018年11月30日号
2018.11.23 11:00
週刊ポスト
個人信用度を点数評価する中国、点数低い男はデートも不可
個人信用度を点数評価する中国、点数低い男はデートも不可
 新たな産業が次々と登場する中国では、モバイル決済サービスの利用者が急成長し、従来の銀行が“無用の長物”と化してしまった。AIによる審査だけで判断を下すため、融資を受けるまでの時間も日本とは比べ物にならない。大前研一氏が解説する。 * * * 中国の銀行がAI審査を採用できるのは、中国には個人情報に関する規制がないからだ。このため、データベースが使いたい放題なのである。それを活用しているのが、アリペイの信用プラットフォーム「芝麻(ゴマ)信用」だ。「芝麻信用」は個人の信用度を取引履歴などを用いてポイントで評価するシステムで、「社会的地位・身分、年齢・学歴・職業」「支払い履行能力」「クレジット履歴」「交友関係」「消費行動の特徴」という五つの指標を組み合わせて計算している。最低は350点、最高は950点で、一般に700点以上だとかなり優良な消費者だとされる。600点以上になると、ビザ取得が簡単になったりホテルのデポジットが不要になったりするなどの様々な特典がある。 今や中国の男性はこのポイントが高くないと、女性にデートしてもらえないという。最近まではマンションを所有しているかどうかで決まっていた男の価値が、「芝麻信用」のポイントで決まるようになったのである。 このような新しい中国は「タブーなき実験国家」である。IT企業の急成長やフィンテック技術の進化に、北京政府の規制が追い付いていないというか、どこからどこまで規制すればよいかわからなくなって、とりあえず放任している。もちろん、共産党の思想・信条に抵触する可能性がある商売やマンガ、ゲームなどが突如として取り締まりを受ける可能性はあるだろうが、しばらくは深センなどの先端企業が自由に活動して成長を続けていくだろう。 ただし、その一方では、古い製造業を抱え込んだまま停滞している地方や地域があるし、各地に大々的に建設されたマンションや巨大ショッピングモールが鬼城(ゴーストタウン)化してもいる。 この先の中国経済は不動産バブルがはじけて崩壊する可能性が高いと思うが、北京政府が理解できない最先端産業は規制されることなく、どこまでも進んでいくだろう。だが、もし規制が厳しくなれば、最先端産業はその膨大な実験成果を伴って海外進出を加速させ、日本やアジアのeコマースやフィンテックを根こそぎ奪い取る可能性も高い。世界第二の経済大国は、今後も新しい中国と古い中国が混在したまま、歪な発展を続けていくのではないか。※SAPIO2018年9・10月号
2018.10.14 07:00
SAPIO
中国の銀行はAI審査採用 日本の銀行とは月とスッポン
中国の銀行はAI審査採用 日本の銀行とは月とスッポン
 中国の躍進が止まらない。中でも成長著しい深センは、1980年に30万人だった人口が、1400万人へと一気に激増。世界的企業がいくつも誕生している。国内では地方格差という問題も起きているが、急成長のスピードは止まる気配はない。大前研一氏が解説する。 * * * いま中国では新しい産業が登場し、急成長している。一例は、個人向けモバイル決済サービスをはじめとするフィンテックだ。 スマホやタブレットPCによるモバイル決済サービスの利用者は、eコマース最大手アリババ傘下の金融会社アント・フィナンシャルの「アリペイ(支付宝)」が約5億人、テンセントの「ウィーチャットペイ(微信支付)」が約9億人に達している。 利用者は重複しているが、それを勘案しても中国人の大半は両方、もしくはいずれかのモバイル決済サービスを使っているわけだ。その結果、決済だけでなく貯金や資産運用などの金融サービスも両社が手中に収め、従来の銀行がほとんど“無用の長物”と化してしまった。 たとえば、アント・フィナンシャルが運用している4%を超える高金利のMMF(マネー・マネジメント・ファンド)「余額宝」の管理資産規模は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、わずか4年で23兆3000億円に膨れ上がり、世界一になったという。その額は、2位のJPモルガン・アセット・マネジメントが運用するMMFの2倍以上だ。 さらにアント・フィナンシャルは、小規模企業や個人事業主への融資を一瞬で行っている。「3・1・0」というシステムで、スマホのアプリから融資を申し込むと即座にコンピューターが可否を判断し、数分以内に送金される。 融資申請の記入に必要な時間が「3」分、可否を判断する時間が「1」秒、そして審査に携わる人間は「0」人。つまり、融資対象の取引状況や経営状況などの情報を蓄積したビッグデータに基づいて信用度を評価し、AIによる審査だけで判断を下しているのだ。融資申請で未だに何枚もの書類にサインして実印を捺さねばならない上、審査に何日もかかる日本の銀行とは月とスッポンである。※SAPIO2018年9・10月号
2018.10.07 07:00
SAPIO
経営コンサルタントの大前研一氏
大前研一氏 老朽化に負けない東京「先進的メガシティ」構想
 日本の道路や橋、トンネルなどのインフラは、今から約50年前の高度経済成長期につくられたものが多いため、そろそろ耐用年数を迎えようとしている。社会インフラだけでなく、マンションの老朽化も深刻な問題だ。経営コンサルタントの大前研一氏が、倒壊する危険もある老朽マンションの問題を解決するプランを提案する。 * * * イタリア・ジェノバで今夏、建設から50年以上経た高速道路の高架橋が突然崩落し、43人が死亡する事故が起きたが、これは“対岸の火事”ではない。 2007年に高速道路の橋が崩落して多数の死傷者が出たアメリカでも、橋や道路の多くは建設後70~80年経過して老朽化している。しかし、修繕や造り直しは遅々として進んでいないため、トランプ大統領は1月の一般教書演説で今後10年間に1兆5000億ドル(約163兆円)規模のインフラ投資を求めた。 日本も同様だ。2012年の中央高速道路・笹子トンネル天井板落下事故は記憶に新しいが、高度経済成長期以降に整備された道路や橋、トンネル、下水道などの大半が、今後15年で耐用年数の目安とされる「建設50年」を超える。 これに危機感を募らせた国土交通省は2014年に「インフラ長寿命化計画」を策定し、戦略的な維持管理・更新を進めようとしているが、予算や技術者の不足でなかなか進捗していないのが現状だ。 そもそもインフラは我々の健康診断や人間ドックと同じように定期的なメンテナンスが必要だが、今のところそれに相当する調査方法は極めて原始的である。たとえば、ビルやマンションの外壁タイルなどは剥がれて落下する危険がないように竣工後10年を経過したら点検しなければならない。 しかし、その方法は足場やゴンドラを設置し、作業員がハンマーや棒で叩いて音で判断する「打診調査」が今なお主流である。橋やトンネルをはじめとする公共インフラの調査方法も大差はないが、今後は渦電流やX線などの従来とは異なる検査技術を組み合わせてデータを集め、AIやロボットを利用して簡単に調査・点検できる技術開発に予算を大々的に投入していくべきである。 いずれにしても、これから日本はインフラの老朽化対策に莫大なお金が必要となるわけで、これは「国策」として取り組んでいかねばならない。しかし、巨額の債務を抱える国が、この上さらに老朽化対策に予算を振り向けるのは難しい。 そんな状況の中で、こと東京に関しては、やり方次第でこの危機を乗り越えられると私は考えている。 東京都の「マンション実態調査」(2011年)によると、都内には分譲マンションが約5万3000棟あり、そのうち2割強にあたる約1万2000棟が震度6強や7の大地震に見舞われると倒壊する危険性が高い「旧耐震基準」で建てられた物件だという。 この老朽マンション対策として、都は「玉突き建て替え」制度を2019年度にも創設すると報じられた(『日本経済新聞』8月19日付)。これは、不動産会社が老朽マンションを買い取れば別の場所に建てるマンションの容積率を上乗せし、買い取った物件の跡地にマンションを建設する場合も別の老朽物件を買えば容積率を積み増す―というものだ。 だが、そうした役人の裁量次第で容積率や建蔽率が左右されるというのは明らかに間違っている。そういう子供だましはやめ、建築基準法を根本的に見直して、全国一律からローカルなものにすべきである。 つまり、老朽マンションは安全性だけが問題なのだから、役人が鉛筆をなめながら決めるべきものではないのだ。建築や土木の専門家が、その地域や地盤で確実に安全性が担保できる容積率や建蔽率を計算上決めていくやり方が望ましい。※週刊ポスト2018年10月5日号
2018.09.27 16:00
週刊ポスト

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「定年までTBSに」先輩・吉川美代子アナが期待する安住紳一郎アナのこれから
週刊ポスト
結婚を発表し、お相手を「建築会社」とした滝沢。「一般男性」とは言っていない
滝沢カレン結婚!「テラハ」出演“肉食系”ハーフモデルのどこに惹かれたのか
NEWSポストセブン
眞子さまの箱根旅行のお姿。耳には目立つイヤリングも(2018年)
小室圭さんの妻・眞子さん 華やかだった4年前の「箱根・女子旅ファッション」
NEWSポストセブン
逮捕された「RYO&YUU」
公然わいせつ逮捕「RYO&YUU」、性的動画アップは「親公認」だった 22歳の女は愛知・香嵐渓で全裸に
NEWSポストセブン
結婚し、日本メディアが情報をキャッチしづらいNYで、デイリーメールが追跡取材(写真/JMPA)
小室圭さん・眞子さん夫婦が「離婚で終わったとしても…」英デイリー・メールが報じた「茨の道」
NEWSポストセブン
高橋真麻
高橋真麻「おでんの卵8個食べても太らない」女性が憧れる美スタイルの理由
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