井山裕太九段(右)と中国のミ・イクテイ九段の終局風景


 そこで手を挙げたのがドワンゴ社の川上量生会長だった。打倒アルファ碁を目指し、ドワンゴ社がハードウエアや開発スペースを提供して、Zenの開発プロジェクトがスタートした。そして、昨年11月には趙治勲名誉名人から1勝をあげるなど、Zenは大きな進歩を見せている。

 ワールド碁チャンピオンシップに先立ち、3月19日には、囲碁AI同士による「第10回UEC杯コンピュータ囲碁大会」が行なわれており、Zenは2位。優勝は「絶芸」(中国)だった。絶芸は、アルファ碁の論文を踏襲し、わずか1年で開発されている。

 ちなみに、今回Zenが使った装置は原価約200万円にプラス手をかけて500万円くらいだという。「売っていませんが、売るとしたら1000万円くらいかな」と加藤代表。

 実際に動かしている場所は、なんと北海道なのだという。コンピュータは自身も電力を使い、発熱するので、冷却にも電力を使う。なので、気温が低く、電気代も安い北海道とネットワークで結んで動かしたのだ。「便利な時代になりました」と加藤代表。

 Zenの1日目はミ九段との対戦。優位を確立したものの、最後、詰めの局面で負けていると誤認識して“暴走”。惜しい負けを喫した。

 2日目は朴九段との対局。中盤で大きく優勢になったのに、またもや詰めの段階で“ご乱心”。アマ有段者ならわかる簡単なミスを連発して自滅した。

「途中までトップレベルに互角以上の戦いを見せた」(前十段の伊田篤史八段)のに、「歯がゆい。最後までしっかりやってくれよ。強いだけに残念」と、趙治勲名誉名人は、まるで弟子を叱るような口調で嘆いた。

 最後の詰め(囲碁では「ヨセ」という段階)は、人間なら能力と時間があれば正解に行き着く。AIのZenはなんと、そこが弱く課題なのだという。

 ディープラーニングは、人間が正解を出せない部分(特に序盤、中盤)が強い。これまでのコンピュータのイメージとは全く逆なのだ。人間ならそこまで強い(理解できている)のであれば改善するのは簡単に見えるのだが、AIはそうはいかない。そこだけ直す、というわけにはいかないのだそう。

 朴九段は「気がつかない好手を打たれ、慌てました。投了してもおかしくない状況まで追い詰められた。Zenからいろいろな戦い方を学びました。意味のある対局でした」と、AI対局を振り返った。

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