「人道に対する罪」は、戦時・平時にかかわらず、一般人に対してなされた殺戮、殲滅、奴隷的虐使、追放その他の非人道的行為、または政治的・人種的もしくは宗教的理由に基づく迫害行為について問われる国際法上の犯罪だ。金正恩は最高指導者となって以降、幹部の粛清や一般国民に対する無慈悲な公開処刑を続けている。体制に不都合な言動を行った民間人の政治犯収容所送りも常態化している。ナチスがアウシュビッツ強制収容所で行ったユダヤ人の大虐殺を彷彿させる。
この罪に問われれば、アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリンなどと同様「残酷な独裁者」として悪名がとどろくことになる。実は、人権包囲網を敷くことは、北朝鮮の体制変換を促す劇的効果がある。
まず、中国を巻き込める。北朝鮮と陸続きの中国には大勢の脱北者が逃げ込んでおり、いまも万単位の人が、韓国などへ逃れることができず潜伏している。中国当局は北朝鮮に協力し、そうした人々を摘発しては強制送還している。そうしたなか、立場の弱い脱北女性は中国で性的搾取を受けたり、人身売買の被害に遭ったりしている。この事実を、国際社会にアピールされることを、中国は嫌がるだろう。
国際社会は、中朝国境地帯における脱北者の人権を守るよう促せばいいし、世界の覇権国たろうとする中国もその声を無視できない。では、脱北者の人権が改善するとどうなるか。
北朝鮮の核・ミサイルの暴走を止めるには金正恩体制の転覆は不可欠だ。それは、北朝鮮の民主化を意味する。中朝国境地帯で北朝鮮の人々の人権が守られるならば、脱北者も増加するだろうし、北朝鮮内部にも必ずや、新たな風が吹き込むだろう。