「将棋は親に強制されると、えてして伸びません。まず、将棋そのものが嫌いになってしまう。自分で好きになるというステップを踏まないと、長続きしないのです」(鈴木さん)
そもそも将棋の場合、才能が遺伝することは少ない。江戸時代は将棋にも家元制度があり、名人の息子は家元の跡取りとなるべく英才教育が施された。
「でも、跡取りが強い棋士になったケースはほとんどありません。スポーツや音楽などとは違い、将棋の向き不向きは遺伝によるものではなく、その子が持って生まれた本来の素養による面が大きい。それゆえ親に最も必要なのは強制することではなく、将棋を与えて子供が興味を持ったら、温かく見守る姿勢なのです」(鈴木さん)
実際、母の裕子さんは決して藤井四段に将棋を強制せず、集中したら邪魔しないという姿勢を貫いている。
「母親はいまだに将棋のルールさえ知らず、普段は勝ち負けの話も一切しないようにしているといいます。昔の藤井くんは負けるたびに泣いていたそうですが、叱ることもなく、心ゆくまで泣かせたそうです」(全国紙記者)
この母の距離感が、藤井四段を大成させた秘訣だったといえる。鈴木さんによれば、藤井四段が将棋を始めた時期もよかったと指摘する。
「3才くらいで将棋を始める子もいますが、あまり早すぎても字が読めずルールが理解できない。 私の見解では、ベストは5才。まさに藤井四段が初めて駒を握った年齢です。事実、現在の渡辺明竜王(33才)など、多くの名棋士が5才から将棋を始めています」
最近は親が与えたパソコンなどのゲームで将棋を始める子供が多い。だが名棋士になるには「対戦相手」が重要になる。
「ルールを覚えるにはゲームから始めても構いませんが、本当に大切なのは機械ではなく人間相手に将棋を指すこと。将棋は相手と1対1で駒を指し合って成り立つゲームです。 自分が勝てば相手が負けて、相手が勝てば自分が負ける。そうした悲喜こもごもの“人間同士の交流”を5才のうちから体験することはとても大切です。藤井四段も最初から人間を相手にして経験を積んだからこそ、ここまで将棋が上達したのだと思います」(鈴木さん)
藤井四段の棋士人生は、まだまだ始まったばかり。
※女性セブン2017年7月20日号