そんな小倉監督だからこそ、今春の早実戦での采配は、意外なものだった。「17対18」と大乱打戦になりながら、エースの櫻井を一度もマウンドに上げなかったのだ。「最初から櫻井を使う気はありませんでした」と小倉監督は振り返る。
「秋の5三振でせっかく清宮君が櫻井を意識してくれているんだから、わざわざ球筋を見せる必要はありませんよね」
すべては夏に勝つために、秋の雪辱を果たすために、櫻井を隠したのである。
早実とのライバル対決には、小倉監督も苦い思い出がいくつかある。斎藤佑樹(現・日本ハム)が全国制覇した2006年夏は西東京大会決勝で敗れ、清宮が甲子園デビューした一昨年は、準決勝で惜敗した。
「今年はそりゃあ、特別に早実を意識しますよ。あれだけ叩かれて(打たれて)、負けているんですから」
早実は初戦を8回コールドで勝利した一方、日大三は2点を先制される苦しい展開で、7点をリードした9回裏には3点差に迫られヒヤリとした。早実の和泉監督は言う。
「夏の大会は先を見たら絶対に負ける。次の戦いを見据えて、エースを温存するような采配はできません」
第一シードが早実、第二シードが日大三の西東京大会。7月30日に予定された決勝の舞台は神宮球場である。
●文/柳川悠二(ノンフィクションライター/『永遠のPL学園』著者)
※週刊ポスト2017年8月4日号