山口:ぽってりとかわいらしく造られた手が、また生々しい。手の甲を走る血管の流れがダイナミックで生々しいですが、僕ら生身の人間にはこういうふうには血管が走っていない。リアリティがあるけど、リアルでない表現が晩年の集大成として凝縮されています。
山下:この無著と世親はそれぞれ高さ約2mと、等身大よりわずかに大きく造られているんです。まだ私自身の中で結論が出ているわけではありませんが、その意味を深く考えさせられる作品です。
山口:仏像とじっくり向き合えることで、各々の心の中で仏様との対話が生まれる。そんなゆったりとした展示も素晴らしい。贅沢な空間で非常に興奮しました。
◆山下裕二(やました・ゆうじ):1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻・小学館刊)の監修を務める。笑いを交えた親しみやすい語り口と鋭い視点で日本美術を応援する。
◆山口晃(やまぐち・あきら):1969年生まれ。画家。1996年、東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程修了。合戦図や画面を埋め尽くすように描き込まれた街の鳥瞰図など、ユーモアとシニカルさを織り交ぜた作風で活躍。2013年、自著『ヘンな日本美術史』で第12回小林秀雄賞を受賞。
■撮影/太田真三、取材・文/渡部美也
※週刊ポスト2017年10月27日号