その後、がんは寛解したが、医師に「栄養を摂って、体力をつけるように」と指導されても、くじけてしまったと堀氏はいう。
「何を食べても“味気ない”という感想しかない。そこで医師から『抗がん剤の副作用による味覚障害かもしれない』と言われて、耳鼻咽喉科に行ったところ、やはりそうだった。いまは亜鉛錠剤を摂取して、徐々に味覚を取り戻しています。
ただ、ずっと食事を作っていた同居する息子の嫁には、“価値観の違いがあるから一緒に住めない”と言われて、息子夫婦は引っ越してしまいました。今なら悪いことをしたとわかるのですが、家族関係も元通りになるかどうか……」
坂本勲氏(72、仮名)の場合は、病や薬の副作用が原因ではなかったという。
「若い頃から食が細かったのですが、定年後は出歩くことも減り、どんどん食事に関心がなくなっていた。1日1食の日もあって、今思えば、その時から発症していたのでしょう。
2年前に肺炎で入院した時に『ひどい栄養不足』と医師に指摘されたんです。それを機に食べ歩きをしようと、ムリして有名レストランにも行ったけど、どうにも味を感じない。次第に、お茶とお菓子ばかり食べて、それ以外は口にしない食生活になっていました。何で食べないのと人に言われても、どうしようもなく、ふさぎ込んでしまった」
妻の勧めで病院に行くと、味覚障害と診断された。