だが日本は経済大国となり、自衛隊の規模も役割も拡大し、小さくて弱い日本を想定した憲法はサイズが合わなくなっている。
一方、国際情勢を見れば、同盟国である米国は孤立主義に向かっている。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)から脱退し、気候変動抑制に関する国際協定であるパリ協定からも離脱する意向を表明した。
米国が内向きになれば、同盟国の安全保障に空白が生じるが、それは自分の力で埋めろというのがトランプ大統領の考えだ。事実、彼に影響を与えている政治コラムニスト、パトリック・ブキャナン氏は、韓国のGDPは北朝鮮の40倍、日本は100倍で、一方、北朝鮮はGDPの25%を軍事費に充てているが、韓国は2.6%、日本は1%以下だという数字を挙げ、「中国と北朝鮮の脅威に米国が対応する必要はなく、日韓両国に責任を負わせるべきだ」と主張している。
近年、米国内には“Weak JAPAN派”とは正反対の“Strong JAPAN派”が増えている。日本の防衛力を増強させ、さらには核武装もさせて安全保障を分担させるべきという考えを持つ勢力が増えていることを日本人は認識すべきだ。
アジアにおいては、力による現状変更を憚らない中国の台頭が著しく、一方、同盟国の米国は指導性や存在感で内向きになり、しかも下り坂だ。
有事の際に米国は米国人の血を流してまで、日本を守ってくれるのか。そのような厳しい現実にあって、日本の憲法には自衛隊の存在すら明記されていないのだ。「護憲」を主張する人たちには、逼迫した世界情勢が目に入っていないのではないか。憲法改正は時代の要請であり、新しい日本の“始まりの始まり”となる。安倍首相には誇りと覚悟を持って臨んでほしい。
【PROFILE】1933年生まれ。早稲田大学卒業後、時事通信社に入社。ワシントン支局長などを歴任。杏林大学名誉教授。日本会議会長。国家基本問題研究所副理事長。『日本国憲法と吉田茂─「護憲」が招いた日本の危機』(自由社、共著)など著書多数。
※SAPIO2017年11・12月号