それもそのはず。家庭やマイカーの中にまで行政が介入するようになれば、都民の生活に大きな影響を及ぼすのは必至である。にもかかわらず、有識者を集めた検討会などは開かれず、都議会で事実上、審議された時間は9月29日の厚生委員会の約1時間半と、10月3日の同委員会の約10分のみ。その2日後に本会議でスピード採決という流れでは、十分な議論が尽くされたとはとてもいい難い。
手続きの拙速さもさることながら、問題はやはり行政がプライベートな空間にまで立ち入ることにある。全国の自治体で初めて屋内喫煙を規制した神奈川県受動喫煙防止条例の見直し検討部会長を務めてきた玉巻弘光・東海大学名誉教授(行政法)の指摘だ。
「『法は家庭に入らず』という格言があるように、家庭内は基本的には私的領域として家族の自律に委ねられるべきであり、法が踏み込むことには謙抑的であるべきだ。実際、刑法では、親族間の窃盗のように法が家庭に入ることを控えている部分がある」
一方で、子どもを守るために家庭内を規制する法制もある。児童虐待防止法やDV(ドメスティック・バイオレンス)防止法などがそれにあたり、条例案をまとめた都議は「受動喫煙は児童虐待と共通性がある」などと主張してきた。しかし、玉巻氏は「児童虐待やDVはただちに人の安全にかかわる問題であり、窃盗や受動喫煙とは危険の性質が異なる」として、こう続ける。
「本気で子どもを守るのであれば、溺死や転落、やけど、誤飲など命にかかわるより大きな危険を防止する責務も併せて課す必要を検討しなくてはならないはず。なぜ受動喫煙だけを抜き出すのか。法が介入すべき問題と、介入を控えるべき問題の境界線は十分に検討する必要がある」