◆私らしさ、の呪縛を解く
──シンプルに結婚に飛び込む、は年齢を重ねるほど難しくなっていきます。
木宮:私らしさとはこうだ、とか、自分の理想はこう、と決めすぎると、人はどんどん複雑になっていくんです。でも、それは自分の思い込みにすぎません。そもそも仏教では「自分」なんてないんですよ。自分にあまりこだわらず、むしろ相手に喜んでもらいたい、幸せになってもらいたい、そういう気持ちが出てこないことには、結婚は難しいでしょうね。相手がどう思うか、の問題はありますが、まずは自分ができることがあるんです。
結婚にも通ずる分かりやすい話に、地獄と極楽の生き方のたとえ話があります。
──地獄と極楽の生き方の違い、教えてください。
木宮:数十人が座る長テーブルに大変なご馳走が並び、皆が座っているんです。ただし、人々は椅子に縄でぐるぐるに縛られていて、手には、長いフォークを持たされているんですね。で、フォークが長すぎて、料理をさせても自分の口に運ぶことができなない。目の前にご馳走があるのに食べられない。これほどの地獄はありません。足元に幸せは落ちているのに、満たされない、飢えている状態です。
極楽もほとんど同じ状況です。料理を前にして、椅子にぐるぐる巻きに縛られている。手には長すぎるフォーク。しかし何が違うかと言えば、まず、隣の人、向かいの席の人に、自分のフォークで料理を食べさせてあげるんです。そうすると相手が食べさせてくれる。
まず、隣の人に与える。周囲の人の幸せを願う。自分の幸せを最初に願うか、他者の幸せを願うか、この違いが、地獄の生き方と極楽の生き方の違いです。ちょっとした差が大きな差になる。結婚や恋愛も、最初に相手の幸せを願う心を持つか持たないかで大きく変わってくるのです。