一方、カフェ店主・天童役のゴリが、二人とはまた質の違うキャラクターを明快に表現している点も注目。ニコリともせず渋い顔、表情を崩さない。何かに悩んでいる。後悔している。打つべき手を探す。隠している秘密もある。そんな複雑な中年男・天童というキャラクターの造形が安定していて揺るぎない。ゴリはもはや俳優そのもの、というか映画監督もしているだけあって演出家の意図・狙いを的確に表現している巧さ、実に見事です。
あわせて、この人の演技にも言及しないわけにはいきません。
圭介の元彼女・由子役の島崎遙香。由子は、独占欲が強く嫉妬深くて攻撃的で圭介に首輪をして犬のようにかしずかせる。圭介の心が離れてしまうとストーカーになる。目が笑っていないから怖い。嫉妬のあまりナイフで刺し殺そうかというシーンは、画面からはみ出してくるド迫力。「女優」にかける強い意志の現れでしょうか、アンバランスな人物を島崎さんは渾身の力を込めて演じ切りアッパレ。AKB時代、「塩対応」が持ち味でしたが、「塩」をとっくに通り越し、凄まじい恐怖を感じさせる「怪優」の仲間入り、と言えるでしょう。
リケジョの大森知恵(安達祐実)は冷たく怪しい。坪井(猪野広樹)は心の壊れ具合がゲスすぎて気味悪い。風間(六角精児)は裏で全ての糸を引いていそうな謎めいた人物……と一人ひとり、違うキャラがきっちり粒立っている。それこそ、演技の力と共に演出の力です。横浜等のロケを多用した演出の臨場感、疾走感も生きています。
謎解きストーリーの一方で、ふとした瞬間に沁みる言葉にも出会う。
「何かが足りないってことは、伸びしろがあるってこと」
「リピートしてもしなくても、自分の人生変えたければ、努力しないといけないんだよ」
原作は150万部のヒット作『イニシエーション・ラブ』作者、乾くるみの同名小説。しっかりとした原作があり屋台骨があるからこそ、脚本には過剰な説明やムダがなくセリフはシャープで時に印象的、テンポよく仕上がっています。
一話完結型と連続ドラマの良いとこ取り。謎解きから人生訓まで光るセリフ。それぞれ役者の切れた演技と、人物造形をはっきり際立たせる演出力──そんな総合力が光る、今期の秀作ドラマです。