昨年3月、千葉県松戸市で小学3年生のベトナム国籍の9歳女児が失踪し、2日後に遺体で発見された。生前の少女の愛くるしい姿が報じられるや犯人への激しい怒りを招いたが、一方で被害者とその家族がなぜ日本で暮らしていたのか、という点については深く言及されることはなかった。これは、事件直後から現場で取材するノンフィクションライター・水谷竹秀氏によるレポートである。
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夕暮れ時、中層ビルの中から私服姿の若い男女たちがぞろぞろと出てきた。その日の授業が終わって一息ついたのか、表情は皆、晴れやかで、ベトナム語やネパール語で談笑しながら、新松戸駅まで歩いて行く。その一団にいた、ホーチミン出身のグエン・チ・ハウさん(20)は来日2年目だ。留学の経緯を尋ねると、まだ覚束ない日本語で答えた。
「ベトナムにいる時から、テレビで日本のアニメを観ていたので、興味を持っていました。日本の文化やIT技術を勉強したいです」
日本語の留学生にはごくありふれた返答だ。学費や留学斡旋手数料、渡航費などを含めると初年度には百数十万円という大金が必要だが、ハウさんは、両親が負担してくれたという。
「生活費はコンビニのバイトでやり繰りしています。習志野市に家賃6万円のアパートを借り、ベトナム人3人とシェアしています」
ハウさん以外にも数人、ベトナム人留学生に話を聞いたが、留学費用に関しては皆、「親が負担してくれた」と口を揃えた。借金して来日し、その返済に追われてバイト漬けの日々を送る留学生もいると聞いていたため、こうもあっさり「親が負担」と答える彼らの涼しい顔には、少し拍子抜けしてしまった。