彼の思いが綴られている、直筆の手紙

(今日は複数の執行があるのか……)

 死刑囚たちは息を詰めた。やがて職員たちの足は、オウム死刑囚・井上嘉浩の部屋の前で止まった。

(助かったぁ……)

 死刑囚たちは、ほっと胸を撫で下ろした。そして、前後左右を職員に囲まれて廊下を歩いていく嘉浩の姿を目撃する。白い半袖Tシャツに、紺色のハーフパンツ。井上嘉浩は動揺するようすもなく、泰然自若として、ゆっくり歩を進めた。堂々とした姿が死刑囚たちの脳裡に残った。

 嘉浩への絞首刑は、同拘置所北西の端にある八舎の地下で午前八時四分に執行された。享年四十八。

 一九九五年五月十五日に二十五歳で逮捕されて以来二十三年二か月。井上嘉浩の人生は、こうしてピリオドが打たれたのである。

◆蘇った“魂の叫び”

 私は、このほど『オウム死刑囚 魂の遍歴』(PHP研究所)を上梓した。副題は、「井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり」である。嘉浩が獄中で書いたおよそ五千枚の手記をもとにしたノンフィクションだ。嘉浩本人がこの二十年余り、父親を通してずっと私に送り続けたものである。

 手記には、子供の頃の思い出、中高時代の体験、オウムとの出会い、過酷な修行、死刑囚となる犯罪……すべてがその折々の心情を振り返りながら記されている。嘉浩は、「手記を書くのは、本当に辛い。愚かにも誤った道に突き進んでいった自分を思い出していくからです。後悔と悲しみが募ります」と書いている。つまり、獄中記は嘉浩の“魂の叫び”そのものなのだ。

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