厚労省の廊下だけ、なぜこんなに暗いのか(若手改革チームの緊急提言「概要版」より)

 武内氏は多忙の原因は主に3つあると指摘する。1つ目は、厚労省の政策は年金や介護、医療のように与野党の対立法案となるものが多く、消耗が激しいこと。利益団体も多く調整に時間を割かれ、野党が重箱の隅をつついてくるのに備えて法案を隅々まで詰める必要があり、とにかく時間がかかる。

 2つ目は、圧倒的な人員不足。財政再建を旨とした1983年の第二次臨調以来、各省庁の人員数はほぼ固定された一方、少子高齢化の中で厚労省の仕事が激増した(社会保障費は当時の25兆円から現在は140兆円まで増えた)のに、厚労省の職員数はほとんど増えていない。

 3つ目は、マネジメントの不在だ。公務員試験をパスした有能な人たちが集まる均質な組織であるため、放っておいてもみんな頑張るし仕事はよくできる。昇進も年功序列なので、民間企業のようなマネジメントが不在となり、非効率な業務が改善されないままだという。

 厚労省のこの状況が続けば、不利益を被るのはほかでもなく、国民自身である。武内氏はこう指摘する。

「私が危惧するのは、過酷な状況で働かされているせいで考え方が独善的になっていくことです。『こんなにがんばっているのだから、自分たちが間違っているはずはない、外の人にとやかく言われたくない』というマインドに陥る危険性がある。あまりに忙しいと外の人と会う時間もないし、会う気にもならないから、世間知らずになってしまう。世界的に見ても政策面で後れをとることになります」

 前述の提言では若手職員自ら「増員」「生産性向上のための業務改善」「意欲と能力を発揮できる人事制度」「オフィス環境の改善」を訴えている。武内氏は彼らの提言を「蛮勇を発揮してよくやった。応援したい」と評価した上で「事務方トップである事務次官が先頭に立って改革を推進できるかが鍵」という。

「民間だって大変なのは同じ」という世間の反応があることも承知の上での緊急提言なのだろう。私たちの健康と生活を守る厚労省なのだから、批判は期待の裏返しと捉えて改革を断行してほしい。彼らが意欲と能力を最大限に発揮するためであれば、多少費用がかかっても国民は納得するはずだ。

●取材・文/岸川貴文(フリーライター)

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