香淳皇后役の桃井かおりとは舞台で二人芝居もやってきた。
「舞台の延長みたいでしたね。撮影の前の日に二人でプランを練り合って、それを阿吽の呼吸で見せる。自分の台本にないことなんですが監督も『面白いね』と言ってくれました。
舞台の時は全て即興でした。あらかたのあらすじだけ決めておいて。『体で台本を書く』という方法でした。台本を模倣するんじゃなくて、『俺自身が鉛筆なんだ』みたいな」
二〇一六年にはマーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙』で、キリシタン弾圧を指揮する井上筑後守を演じた。
「これは妙に自信がありました。井上のイメージがあったから。
井上は、ほほ笑むんです。よく外国人が『日本人は薄ら笑いをしていて何を考えているか分からない』と言うのを聞いていたので、ほほ笑みから入ろうと。そこから役が育っていく。そういうプランがあったので、どんな規模の大きな現場であろうが楽しもうという感じでした」
弾圧される宣教師の一人はリーアム・ニーソンが演じている。
「半端じゃなく役を作ってきますね。アメリカではメソッドといって内面からその役をとらまえるやり方が主流です。それを目の当たりにして、僕にはできないと思いました。もちろん否定するわけではありません。
それだけ一つの役に真剣なので、ニーソンさん、本番かかると存在がのしかかってくる。何も言わないのに、目が燃えていて。それでいて冷静に芝居を組み立ててコントロールしている。役作りだけでなく人間の捉え方が分厚いな、と思いました」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡正樹
※週刊ポスト2019年12月6日号