エンディング・ノートに遺すのも手(イメージ)

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119番は苦しみの始まり!

 家族が医療に一縷の望みを託した結果、「苦しい死」を招くケースは少なくない。

 原因不明の神経難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)が進行した70歳の男性は死期が迫り、手足が動かず話もできなくなった。

 男性は事前に延命治療を拒否して、自然な死を受け入れる意思を表明していたが、いよいよ旅立ちを迎えようとした際、駆けつけた息子が119番で救急車を呼び、搬入先の病院で人工呼吸器を付けられた。

 この男性の在宅医療医を務めていた、小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長の小笠原文雄医師が語る。

「病院に駆けつけると、男性は意思表示用の文字盤を使って『はずして』と涙ながらに訴えました。ALSを患うと多くの場合、呼吸ができずに朦朧とするために痛みを感じづらくなります。しかし、人工呼吸器につなぐことで体内に酸素が増え、痛みの感覚が戻ってくることもあります」

 人工呼吸器をつけられた患者のなかには、苦しみのあまり自ら器具を外そうとして、両手を縛られるケースもあるという。

 結局、この男性は1年間も人工呼吸器をつけたまま生き続け、病院で亡くなった。

「臨終間際の高齢者のために救急車を呼ぶことは慎重になってほしい」と小笠原医師は指摘する。

「救急車を呼ぶということは、“救命を望む”という意志表示です。病院側は延命を望む患者には必死で治療を行なうので、医療従事者は場合によっては骨折しても心臓マッサージを続けます」

 心臓マッサージが効果を発揮するには胸の厚さの3分の1まで圧迫する必要があり、末期がん患者や高齢者は骨がもろくなっているために圧迫によって肋骨が折れることがある。

「日本では何かあれば救急車を呼ぶことが常識とされますが、何よりも本人の意思を尊重することが望ましい」(小笠原医師)

 救急車を呼ぶことで、逆に苦しめてしまうこともあるのだ。

「終末期鎮静」のリスク

 苦痛を和らげようとして悲劇を生むケースもある。昨今、その是非が問われているのが、安楽死にも似た「終末期鎮静」だ。

「一睡もできないほど耐え難い苦痛のある患者に対し、鎮静剤を投与して“永遠の眠り”につかせる終末期鎮静のことを医療用語で『持続的深い鎮静』と言いますが、持続的深い鎮静をされた患者は最初に『心の死』、次に『肉体の死』を迎える。

 私には“2度殺される”ということに思えてなりません。また、家族がこの方法に同意した場合、『私たちが死なせてしまった』という後悔の念を抱き続ける可能性もあります」(小笠原医師)

 現在、在宅医療でも広まってきている持続的深い鎮静については、「患者にとって本当に幸せなのか」という議論が起こっている。

 小笠原医師は、持続的深い鎮静をしなくても苦痛を和らげる方法があると話す。

「痛みを感じた時に患者自身がモルヒネを投与できる『PCA』という装置を活用して痛みを和らげます。さらに『夜間セデーション』という方法で夜は深い眠りにつき、朝は目覚めることができます。これなら患者本人に希望が湧き、家族の負担も減らせます」

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