広瀬:亡くなった患者さんの唇にぽんぽんと口紅を載せたり、手に刻まれた闘病の名残をお化粧でやさしくぼかしてあげたり。咲和子先生が手にファンデーションを塗る姿は亡くなったかたへの深い愛情や目に見えない過去が伝わって、忘れられないシーンです。いつか自分のそばにもそういう人ができたらいいなと思いました。吉永さんは初めての医師役だったんですよね。
吉永:初めての挑戦でいちばん難しい役柄だったかもしれない。親しい人に別れを告げて旅立つ場に在宅医師として立ち会い、患者さんやその家族に心で寄り添うというのがね、そこはなかなか難しくて迷いながら…。特に老齢の自分の父親の最期については医師として、そして娘としての咲和子の考え方も違うので、悩んだままにエンディングを迎えました。でも、それが逆に自然なのかなって。決められる問題ではないと、演じながら感じていました。
松坂:心に寄り添い、命と向き合ってそれぞれに選択した形がそのご家族の正解なのかなと、ぼくは感じました。
吉永:そうやって寄り添ってくれる家族の大切さが身に染みて、私も他界した両親や身近な家族を思いやる時間が持てました。自分ができることを家族に尽くすことはとてもすてきなことだと、伝えられたらいいなと思っています。
撮影/三浦憲治 取材・文/渡部美也
※女性セブン2021年5月20日・27日号