カメリエーレさんとそれほど長くは話せなかったが、彼もまた少子化における自身の価値と柔軟な姿勢を持ち合わせていた。日本の20~29歳人口は総人口約1億2575万人に対して約1273万人しかいない(以降すべて2020年9月1日時点の確定値・総務省統計局2021年2月報)。そりゃ奪い合いになるわけだ。その中で地方国立大学以上の割合は同世代の10%くらい。20代で国立大卒、長身イケメンで陽気なカメリエーレさん、すぐに人生の修正は利くだろう。ちなみに30代も約1388万人と同程度なのに対し、40代は約1805万人、50代が約1669万人。中高年、そりゃ扱いもぞんざいなわけだ。で、60歳から上は約4364万人、福祉の破綻は見えている。10歳以下のキッズなんか963万人しかいない。
すべての修正のきっかけはコロナ禍 ―― コロナ解雇10万人の中にすら、年齢や経験といったひと言では言い表せない格差がある。きっかけはどうあれ、コロナ禍をきっかけに多くの若者が、日本の真の社会保障とそのチャンスは若いうちにしかないことに気づいて欲しい。20代で引退するようなごく一部のスポーツジャンルや、若さしか売れない”特殊な仕事”でもない限り、夢は会社に勤めたって、その後だって見ることが出来る。いつの時代も、最初に切られるのは非正規だ。コロナ禍、売り上げも仕事も減って正規で回せる現場なら非正規なんかいらない。その現実を我々はまざまざと見せつけられている。
そして自嘲で済む未来いっぱいの若者であるカメリエーレさんと違い、中高年には地獄が待っている。若者が正規職に殺到すれば弾き出されるのは中高年だ。数十年働いて、社内で結果の見えた中高年の一部を会社は「ハズレを引いた」と思っている。新卒ガチャはもちろん、20代ガチャ引き放題になりつつあるコロナ禍、結局使えなかったアイテム=結果を出せないまま年を食った労働者はいらないということだ。近年リストラが発表された大手電機メーカーなど、裏を返せば50代バブル入社組は1人あたり4000万円上乗せ課金してでもお引き取り願いたい、というわけで、この歪んだ日本の新陳代謝はますます進むだろう。
カメリエーレさんのような若者たち、ミレニアル世代やZ世代と呼ばれる21世紀に生きる人たちには同じ轍を踏んでもらいたくない。だからこそあえて正社員こそ日本の社会保障と筆者は繰り返す。しかし手遅れの中高年、これから地獄をみる中高年にとって、それで納得できるかといえば自分の子どもでもない限り「否」だろう。コロナ禍の分断は、かつての団塊世代と団塊ジュニア同様の、世代間の分断も繰り返そうとしているのかもしれない。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近日刊『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛されたコミュニスト俳人 』(コールサック社)。