念願のひとり暮らしを始めたハミ山氏はあらゆる経験を新鮮に感じ、「何かを自分で選ぶ」という喜びを知った。壊れたトイレを使うごとに水をタンクに入れて流し、土足で家に上がることが日常だったハミ山氏は実社会でいろいろな苦労をしながらも母と離れた生活を楽しんだ。そんな彼女は数年前に結婚して、いまは子供もいる。
「やっぱり子供を産む前は、『自分の母親のようになるのではないか』という不安がすごくありました。出産後も子供に手をあげてしまったらどうしようといった恐怖がありましたが、いまは私と母親の関係と、私と子供の関係は全然違うんだと思えます。『子供を東大に行かせたいか?』ってよく聞かれますが、学歴が高くなるよりも心が健康な子に育ってほしいですね」
母親のもとを離れたハミ山氏が新しく始めたもののひとつがマンガを描くことだ。2015年に単行本化された『心の穴太郎』に続いて、社会人として働き、子育てをしながら『汚部屋そだちの東大生』を描き上げた。
読者からは、「これまで自分のわがままでつらいと思っていたけど、このマンガを読んだら同じような経験が描いてあって、自分の家に問題があったことがわかった」「つらい状況から脱出できることに勇気づけられる」といった反響が続々と寄せられているという。
最後にハミ山氏がマンガの読者にメッセージを送る。
「同じような経験をした人があまりつらくなり過ぎないように、マンガはマイルドに描いたつもりです。東大生は周囲から『頭がいいんでしょ』と言われるけど、たとえ学歴があっても、みんなが普通にできることが普通にできるまでには、本当につらくて苦しい経験をすることがあります。マンガを通して、そうした“普通の難しさ”も伝えられれば嬉しいです」