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「娘は喃語を話すようになったくらいです。早く会話がしたいな」(和さん)(写真/本人提供)

 和さんの体調は、東京移住の手前で加速度的に悪化した。抗がん剤の副作用で下痢や激しい腹痛が続き、泣いている娘を抱きあげることさえできない日もあった。東京に転居した当日の4月4日。40℃近い高熱が出た。

「実は、青森にいるときからずっとお腹が痛くて……。検査をしたら、腫瘍が腸をつぶして便の通路を塞いでいるので、すぐに人工肛門を造る手術が必要だと言われました。ただ、東京の病院は手術の予定が埋まっているとのことで、急きょ夫だけを残して青森に戻ることにしました」

 人工肛門(ストーマ)は、腹部の壁を通して腸の一部を外に出し、肛門の代わりに排泄口とする。便を受け止める装具とともに使用するのが一般的だ。

「大腸がんだとわかったときから、いつかは人工肛門を造る覚悟はできていました。でも、いざ造るとなると、やっぱりショックが大きくて……。食べたものが出てくるのが見えるのが気持ち悪くて、食欲の湧かない日が続きました。漏れたらどうしようと不安になって、眠れない日もありました」

 深く落ち込む和さんを癒したのは、愛する娘だった。

「入院している間、娘は私の実家で面倒をみてもらっていたんです。1か月近く会えなかったので、私のことを忘れてたらどうしようって内心では心配でした。でも、退院して家に帰ると、娘が“後追い”をしてくれたんです! 離れていたけれど、私のことをちゃんとママだと認識してくれているんだと感動しました」

 その一方、青森で手術を受けた際に説明されたのは、ショッキングな話だった。

「東京の主治医の所見は、『抗がん剤の効果がなくなってしまい、これ以上の治療は難しい。残された時間は緩和ケアをして有効に使った方がいいのでは』というものだと伝えられました。そこで初めて“看取りの準備をした方がいい”と告げられたんです」

「看取り」—24才の母にとってはあまりに重い言葉だ。

「自分でも、体が弱ってきているのは感じます。調子がいい日は少ないし、痛みはあるし、吐いちゃうし、一日中横になっていることも多くて……。治療法がないならそろそろ死ぬかもしれないな、って感じです。

 でも、遠藤さん(夫)を悲しませたくないし、娘にもさみしい思いをさせたくない。5年後も、10年後も、その先もずっと、娘と一緒にいてあげたいし、成長を見ていたいんです。だから、延命じゃなくて、治すための治療法を探したいと思っています。いまは体中が管だらけで普通には生きられないけど、絶対に治して普通を取り戻します。当たり前を当たり前にできる体になってみせます」

取材・文/土屋秀太郎

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※女性セブン2021年6月10日号

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