高ければいいものではない
この問題を理解するには「免疫力」という言葉を正しく知る必要がある。ナビタスクリニック川崎の谷本哲也医師が語る。
「免疫は、ウイルスや細菌といった病原体などから身体を守る細胞の働きからなる生命の仕組みです。白血球が免疫の主体で、好中球、好酸球、リンパ球などの種類があり、さらにリンパ球はT細胞、B細胞などに分けられます。いろいろな免疫細胞が複雑に絡み合い、絶妙なバランスで成り立ち、連係して身体を守るのが免疫システムです。
免疫のバランスが崩れたりすることで、風邪などの感染症に罹りやすくなります。しかし、病原体の種類により免疫の反応は違います。また、システム全体の総合力を“免疫力”と呼ぶ場合、その測定方法はありません」
法政大学生命科学部元教授で『暮らしのなかのニセ科学』の著者である左巻健男氏もこう言う。
「“免疫力”という言葉は科学者は使いません。しかし、消費者に聞こえがいい言葉だったため定着してしまった。そこにコロナ禍の不安が来て消費者の心を惹きつけ、一大市場になった」
そもそも免疫力は高ければ高いほどいいというものではないのだと、秋津医院の秋津壽男院長(総合内科専門医)はこんな例を挙げる。
「免疫細胞が過剰に働くことで、かえって病気になってしまうことがある。スギ花粉に対して過剰に働けば花粉症に繋がり、ひざの関節で過剰に働けばリウマチの原因になります」
新型コロナに関しても重症化の原因の一つとして「免疫細胞の過剰反応」が指摘されている。2020年4月に量子科学技術研究開発機構の平野俊夫理事長が感染者の体内でサイトカインストームという現象が起きて重症化に至ると発表した。新型コロナウイルスにより肺の免疫細胞が活性化された結果、炎症が発生し、心肺が機能不全を起こすという。
また、新型コロナに対して、特定の免疫細胞を活性化することで、感染や重症化を防げるかというと、現状では医学的なエビデンスはない。消費者庁では〈コロナウイルス予防、ごまの脂質に含まれるリノール酸やオレイン酸などの不飽和脂肪酸は、免疫力を高める〉と謳った健康食品に対し、景品表示法や健康増進法に基づく改善要請を出している。
「リノール酸は体内で合成できない必須脂肪酸ですが、摂りすぎると免疫細胞が働きにくくなり、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性炎症疾患を引き起こすと主張する医師もいます。そして、コロナに効くという証拠もない」(前出・秋津院長)
谷本医師も警鐘を鳴らす。
「今のところ新型コロナ予防に対して有効性が確認されている医薬品はワクチンくらいしかありません。コロナに罹った際にどの免疫細胞が働いているのか、その詳細も研究段階です」