「国産ワクチンを安定的に供給したい」
6月26日、産経新聞のインタビューでワクチン生産の手応えを語ったのは、シオノギ製薬の手代木功社長だ。
日本製ワクチンは、5月時点で5社(米ノババックスから技術移転を受けて国内生産を計画している武田薬品工業を含む)が臨床試験を実施している。世界に比べて大きく後れをとったことは事実だが、シオノギには年内のワクチン量産が期待されている。
フジテレビ系の音楽番組『ミュージックフェア』のスポンサーで知られるシオノギのルーツは、1878(明治11)年に大阪で創業した薬種問屋「塩野義三郎商店」にあり、1980年代までは武田薬品工業、三共(現・第一三共)と並ぶ製薬業界の「御三家」と呼ばれる名門だった。
その後、研究開発が振るわず低迷した時期もあったが、現在は感染症対策でワクチン、治療薬、診断薬の3つを手がける世界唯一の“総合感染症対策メーカー”として、コロナワクチンの開発に邁進する。
シオノギ製ワクチンは昨年12月から国内で第1、第2段階の臨床試験(治験)を進めており、最終段階の大規模治験と並行するかたちで使用承認が得られれば、年内にも実用化される見通しだ。
しかもワクチンの効果などから、1人あたりの投与量を抑えて倍の人数に接種できる可能性が出てきたという。これまで3000万人分だった供給量を、年末までに倍の6000万人分に拡大できる見通しになったとされる。
待望のシオノギ製ワクチンはいかなるものか──まず知っておきたいのは、現在日本で接種が進む欧米製のワクチンとはしくみが異なることだ。
アメリカ在住の内科医・大西睦子さんが指摘する。
「ファイザー製とモデルナ製は『mRNAワクチン』というタイプで、ウイルスの遺伝子情報を体に打ち込み、免疫反応を呼び起こします。一方、シオノギが開発を進めるのは『遺伝子組み換えたんぱく質ワクチン』と呼ばれるタイプです。これは遺伝子組み換え技術を用いて、昆虫の細胞を使って合成したコロナウイルスのたんぱく質を人間の体に打ち込み、免疫反応を呼び起こします」