落合博満監督(当時)はさまざまな采配を見せてきた(時事通信フォト)

落合博満監督(当時)はさまざまな采配を見せてきた(時事通信フォト)

 試合後の記者会見で、9回を迎える前に山井自らが降板を申し出た、という事実が明らかになっていた。序盤に右手の血マメをつぶしていたことも説明された。

 だが、その裏に落合の内面という真実があった。

 落合は血マメの一件があろうとなかろうと、たとえ山井が自ら降板を切り出さなくても、交代を決断していた──駐車場に響いた落合の言葉は、そう語っていた。

 つまり落合は、渦巻く非難を承知の上で、確信的に孤立したのだ。

 その夜、誰もいなくなった駐車場をひとり去っていく落合はパサパサだった。勝つことのみを求め、実際に勝ったはずなのに何も手にしていないかのように乾いていた。なぜか、私にはそれが孤独の持つ美しさであるように見えた。

(第3回へ続く)

【プロフィール】
鈴木忠平(すずき・ただひら)/ライター。1977年千葉県生まれ。日刊スポーツ新聞社を経て、2016年に独立し2019年までNumber編集部に所属。現在はフリーで活動している。著書に『清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実』(文藝春秋刊)など。

※週刊ポスト2021年10月15・22日号

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