和は、治すための治療を続けていました。諦めずに治療を続ければ、絶対にがんは治ると、僕も和も信じていました。だから、僕はこの本を、死ぬことを目前にしたひとりの女性の、つらいばかりの闘いの記録だとは思っていません。和は、がんと闘いました。ただ生きただけでなく、ありきたりの幸せを手放さないように、一生懸命に生きました。正直な気持ちとは違うから、やり切ったねとか、立派な最期だったとか、そんなことは言いたくありません。どんなことをしても、生きてほしかった。

 僕が仕事に出ている日中、点滴の管に取り囲まれる和を助けてくれたのは、青森から上京してきた2人の妹、遥ちゃんと結花ちゃんでした。この夏には、和の実家、櫛引家のご両親も東京に転居して、サポートしてくれました。僕らのもとを折々に訪ねて励ましてくれたり、コロナで会えなくても、遠くから見守ってくれた友人たちがいなければ、心の平静を保つことも難しかったと思います。

 和は、9月2日まで原稿の打ち合わせを続けました。本のために必要な多くの作業を済ませましたが、すべてを終えることはできませんでした。ぎりぎりまで取り組むことができたのは、雑誌やテレビで和のことを知り、手紙やインスタで応援のメッセージを送ってくださった方々の支えがあったからです。ありがとうございます。

 原稿をまとめる作業で、和の手が届かなかったところは、僕が代わりました。それから遥ちゃんと結花ちゃん、ご両親も協力してくれました。娘が将来、母である和の姿を知るための記録を残せたことに、ほっとしています。

 和と僕が、欠点だらけの、どこにでもいるありふれた夫婦だと知りながらも、日々、温かい言葉をかけてくださったすべての皆さまに感謝します。

 2021年11月 遠藤将一〉

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