ピリピリした結果、「女性に対して一切話しかけない」という極端な選択を取る男性も出てくるが、上野氏は女性に配慮した「褒め方」や「コミュニケーションの取り方」がちゃんとあると言う。
「ジェンダー研究の世界では、“女だからかわいい”とか“男だから泣くな”のようなジェンダーに依拠した説明や解釈のことをDoing Gender(ジェンダーを実践する)と呼びます。逆にジェンダーに依拠しない説明や解釈をUndoing Genderといい、たとえば“キミは根性があるね”のように、男も女も関係ない言い方のことを指します。
女性のことを褒めたい時には、このUndoing Genderの言い方にすればいい。たとえば、“女子力が高いね”ではなく“気配りができるね”という言い方にするんです。“かわいいね”という言い方でなく“チャーミングだね”と言えばいい。美人というのは一元的な尺度だけどチャーミングという表現には多様性がありますからね。人によって意味合いは様々だし、男にとっても女にとっても最高の褒め言葉だと思いますよ」
相馬市長の「美人」発言直後、本誌・週刊ポストは『美人論』著者で国際日本文化研究センター所長の井上章一氏に見解を聞いたが、そこでは〈オフィスで女性社員から『○○さんは美人だよね』と語りかけられたら、『僕もそう思う』と答えてはいけないのでしょうか〉(週刊ポスト11月19・26日号)と疑問を述べていた。その問いにはこう答える。
「そういうシチュエーションでは、その女性の話には乗らないほうが賢明でしょうね。女だって、男性的な価値観を内面化していますから、一元尺度でセルフランキングくらいしますよ。でも『僕もそう思うよ』とか言うと、女たちは内心シラケてしまうと思う。『まあ、人それぞれだね』とか『そういうキミも十分魅力的だよ』くらいの返しをすればいいのではないでしょうか」
【後編〈上野千鶴子氏、ルッキズムをやめられない男性に「地域社会で排除される」〉へ続く〉】
【プロフィール】
上野千鶴子(うえの・ちづこ)/1948年生まれ。東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。著書に『おひとりさまの老後』『男おひとりさま道』『在宅ひとり死のススメ』などがある。
※週刊ポスト2022年1月1・7日号