一方、志堂寺教授は、高齢ドライバーの増加は車社会に良い影響も与えるのではないかと考えている。
「都心の駅の光景を想像してみてください。働く若い世代が中心で、忙しなく行き交いできない人は、流れを止めてしまいがちで肩身が狭いですよね。ですが、高齢者の数が増えれば、ゆっくりしたスピードのほうが普通になるかもしれません。
同じことは、車社会にも言えます。現代はなんだかんだで若いドライバーが多数派なので、スピードを出したり多少無茶したりするような運転もありえます。一方で、基本的には高齢ドライバーは老いを自覚しているからこそ慎重で、スピードを出さないのが普通です。
高齢ドライバーの数がもっと増えれば、彼らの安全志向に全体が合わせるようになり、車社会全体が安全運転にシフトすると思っています。若い人たちが高齢ドライバーの運転にイライラしなりしないで、優しい目でみることが重要です。自分もそのうち高齢ドライバーになるのです」
この社会にとって、高齢ドライバーの増加は「未体験の問題」だと志堂寺教授は言う。
「『高齢者の運転は危険だ』というイメージを抱いている方が多いですが、実際のデータから見ると、若い世代のほうが事故を起こす率は高いです。ただ、高齢ドライバーの数自体は増えているので、事故を起こす確率は横ばいでも、相対的に『高齢者の運転による事故が増えている』という印象になっています。
いまの高齢者たちが若かった頃、高齢ドライバーによる問題は存在しませんでした。なので、自分が年を取ってからも運転を続けるためのロールモデルが存在しないのです。いま日本には、高齢者の運転という未体験の問題が起きています。彼らができるだけ長く安全に運転を続けるためにはどうすべきか、社会全体で模索しないといけません」
加齢による衰えには個人差があり、それぞれが抱える事情も異なる以上、「○歳以上は強制的に免許返納」と定めるのも些か乱暴だ。当事者たちの心情なども鑑みて、納得のいく解決法を探っていく必要がある。
◆取材・文/原田イチボ(HEW)