八重は頼朝の監視役であった伊東祐親(浅野和之)の娘だが、実のところ八重の名はどの古文献にも見られず、出どころは地元の伝承である。
伝承の中心は伊東氏や北条氏の本拠地のあった伊豆半島北部で、静岡県伊豆の国市中條にある真珠院という寺院の境内には、八重を祀る八重姫御堂(静堂)という御堂がある。
自治体による説明書きによれば、八重は源頼朝と引き離されてから、父・祐親の命により軟禁状態に置かれていた。悶々とした日々を送るなか、治承4年(1180)7月16日、ついに意を決し、6人の侍女とともに脱走して、源頼朝のいる北条館へ向かった。
ところが、当時の頼朝は北条政子と相思相愛の状況にあり、それをよく知る北条館の門衛は、八重を頑として通さず、取り次ぎさえも拒んだ。絶望に打ちひしがれた八重は近くの真珠ケ淵に身を投じ、6人の侍女たちもそれに殉じた。土地の住民が彼女らを不憫に思い、弔いのために御堂を建立した──。
だがこれはあくまでも伝承で、われらがガッキー演じる八重をこんなに早くドラマから退場させてはいけない。実際のところ、八重に該当する女性は頼朝と別れさせられたあと、北条氏と領地を接する江間次郎と再婚した。今回のドラマでは、伊東祐親の家人という設定の江間次郎(芹澤興人)がそれである。
八重が江間次郎に愛情を抱くことはなく、床をともにすることさえなかったのか、子もできずにいたところで、1180年には源頼朝の挙兵、敗走、巻き返しと大きな出来事が続き、あくまで平家方についた伊東祐親は幽閉中に自害。江間次郎は釈放された伊東清親(竹財輝之助)とともに西へ走り、平家の味方として戦いを続けたが、北陸戦線で討死した。