彼がこれまで演じた役で個人的に印象に残っているものは多くある。映画『血と骨』では重苦しくも尖った存在感を見せ、映画『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』では頼りなく脆い繊細さと愛しさを体現。ドラマ『時効警察』(テレビ朝日系)ではコミカルながらもストイックな警察官に扮し、ドラマ『重版出来!』(TBS系)では穏やかな柔らかさと落ち着いた包容力のある演技を披露した。
どれも同じような役どころではないのに、それでいてオダギリさんの個性が存分に生かされていた。強いような弱いような、優しいような怖いような、穏やかなような張りつめているような、役ごとに彼の中にある個性の要素をうまく使い分けるため、どの役も妙にはまるのだろう。
使い分けているというより、むしろ役によって中心となる性格の特徴を入れ替えるイメージに近いかもしれない。それは心理学者のS.E.アッシュが言う「印象形成」に似ている。アッシュは、人は断片的な情報から相手の全体的な印象を作り、全体の印象形成に影響を与える中心特性があることを実験で明らかにした。知的、勤勉、決断力があるという印象を形作る要素が同じでも、中心となる要素がたった1つ、温かいか冷たいかが違うだけで、相手に与える印象はガラリと変わってしまうという。
オダギリさんの場合は、前面に押し出す個性の要素が尖っているか穏やかなのか、それだけで見ている側にまるで違った印象を与えるのではないだろうか。また、役ごとに彼の中で強く出る要素の順番が変わっているような気がする。印象形成は、後からこんな人だったという情報が加わることで変わってしまうこともある。「ジョーはこんなタイプだろう」と思って朝ドラを見ていると、ある瞬間には違うジョーが顔を出すのだ。
取材でオダギリさんは、「朝ドラはあまり見たことがなかったんですよ。自分とは距離が遠いものだったので」と語ったという。だが、困り顔がよく似合う、優しくもユニークな感性を持つジョーを演じるオダギリさんは、今の朝ドラになくてはならない俳優だ。