1年目も2年目も、球団や監督らは彼を大切に育てていたのだろうが、それをこちらが知る由もない。鳴り物入りでプロの世界に入っても、全ての人が活躍できるとは限らない。怪物と称されたとはいえ、芽が出るのは難しいのだろうと思っていた。人間は勝手なもので、並みいる選手の中において、目立って活躍する姿を見れば記憶に残るが、そうでなければ思い出すのも難しくなってくる。まるで「フォン・レストルフ効果」のようだ。
フォン・レストルフ効果とは、似たようなもの、同じようなものの中で、目立つものや特徴のあるものが印象に残り、記憶に残りやすいという傾向である。しかし、日々活躍する選手たちの中で、目覚ましい活躍を見せ、メディアの注目を一気に集めるのは簡単ではない。佐々木選手の場合、高校野球では残念ながら出身校が甲子園に出場できず、彼の活躍する試合を見たことはなかった。そのため、怪物という異名が先行するだけで、彼の野球が強く印象に残っていなかったこともある。
だが、忘れていたからこそ、彼の活躍はより新鮮で鮮やかに感じられ、印象的だったとも言える。彼の名前と長い手足で剛速球を投げる姿は、はっきり記憶に刻まれた。これはこの効果の影響だろう。
さて、怪物という言葉の意味を調べてみると、性質や行動、力量などが人並み外れた人物のこととあり、そこには、その人物に対する畏敬の念が込められている。そこで昭和、平成、令和と時代を象徴する怪物をネットで検索すると、名前が上がってくるのはプロ野球の投手ばかり。昭和の怪物は江川卓さん、平成の怪物は松坂大輔さん、そして令和の怪物は佐々木選手。時代とともに怪物の雰囲気もずいぶんと変わってきたが、どの時代も野球人気が高く、それだけ野球人口も多く、彼らは野球少年たちの憧れ、野球ファンの期待の存在だ。怪物という異名を持つ選手は1つの時代を作ると言えるだろう。
今シーズンは佐々木選手に、令和の怪物らしい見事な勝ち星を積み上げてほしい。