年齢に関係なく、やりたいことをやればいい

――『いいとしを』の後半には、コロナ禍の東京が描かれています。連載中にこういった状況になった時、描くか、描かないかの選択に迫られたと思うのですが。

オカヤ:実が二度目の東京オリンピックを体験する年代なので、オリンピックを描くというのは最初に決めていました。新型コロナが流行り出して、オリンピックがなくなりそうだという話が出てきた時は、不謹慎かもしれないですけど、そのほうがマンガになるなと。

その後、オリンピックも延期になったし、コロナ禍を描きましょうと編集さんとも話して、途中から方向転換した感じです。

――では、幻の最終回があった?

オカヤ:開会式で終わろうと思っていたんです。実さんは二度目のオリンピックを楽しみにしていて、息子も思うところはあれ「始まったね」みたいな感じで。もうちょい明るい未来というか、めでたい景色を描けたらと思っていたんですけど。

オカヤイヅミさん

予定になかったコロナ禍を描くことになったという

――現実は延期で、今後もどうなるか……。その分、実さんが思い切った買い物をします。

オカヤ:人ってそんなに枯れないよね、という気がしていて。うちの母は80過ぎているんですけど、少女みたいな時もあれば、めんどくさい時もあって。で、「やりたいことをやればいいのに」と言うと、「老人だから、いいのよ」と返ってきたりもして。

――敏夫さんの「老人の元気さって、よくわからないんだよ」というセリフもありました。本当によくわからない。

オカヤ:そうなんですよね。世代的には家族を豊かにとか、反体制だったら反体制とかに動かされがちで、自分のことは我慢しなきゃって世代なのかなと思いますけど、「まだまだ元気でいないとね」みたいな周りへの配慮とは別に個人の欲望もあろうかと。それで、年とか関係なく好きなようにすればいいのにという願望がちょっと入ったのかもしれません。

――実さんが育ってきた時代と今では、世間で「よし」とされるものもガラリと変わりました。

オカヤ:いきなり、「あなたはあなたのままでいいんだよ」「自己肯定感を上げよう」と言われても、びっくりする人はいると思うんです。それに、自己肯定感を上げるのはいいことだから、そうしなきゃっていうのも違うんじゃないかって。

――自己肯定感って、そもそもそういうことじゃないはずですよね。

オカヤ:はい。こういった状況を舌鋒鋭く世相を切り取る!みたいなことはできないので、マンガを描く時は、「今ってこうじゃないですかね?」とスケッチする感覚で描いています。

◇プロフィール 
オカヤイヅミ。1978年。東京都生まれ。独自の感性で日常を切り取った『いろちがい』で2011年にデビュー。著書に『すきまめし』『続・すきまめし』『ごはんの時間割1・2』『ものするひと1・2・3』『みつば通り商店街にて』ほか、人気作家へ理想の「最後の晩餐」について訊ねたエッセイコミック『おあとがよろしいようで』など。デビュー10周年を記念して、『白木蓮はきれいに散らない』と『いいとしを』を同時発売し話題になっている。

文/山脇麻生
撮影/横田紋子

 

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