インティマシー・コーディネーターは女性だけではなく、男性の俳優も守るのが仕事。男性側にも「これはされたくない」という境界線があるので、確認が必要になる。アメリカでインティマシー・コーディネーターとして活動するアッシュ・アンダーソンさんは「権力関係があれば、性的暴力はどこにでも起こりうる」と強調する。
「俳優のケビン・スペイシーが、少年に性的暴行を加えた事件をご存じでしょうか。性的暴行は女性にしか起こらないと考えるのは、思い込みです」
一方、日本では、男性俳優は相手のNGを気にすることが多いと西山さんは言う。
「男性側の事務所から“共演相手の女性に何をしたらいけないのかを知りたい”とよく聞かれます。私はいつも本番までに本人たちの意思を確認し、“腰に手を回すのはOK”“舌を入れるキスはダメ”などと相手のNGを伝える。本番前にも再度確認して伝えます。女性からは“事前に互いのNGを知っておくと安心できる”と言われます」(西山さん・以下同)
契約社会のアメリカでは、事前に何をどこまで行うかを明文化し、制作側と俳優が契約を交わすという。
「アメリカでは撮影の48時間前に制作側から“今回の撮影は、上半身のヌードまで”などと、俳優側に同意書を送ります。俳優は撮影までにやりたくないことを交渉できるし、撮影が終わるまで“やっぱり、やりたくない”と言うこともできる。でも制作側は撮影48時間前を過ぎると、同意書に書かれている事柄以上の、“やっぱり、下半身のヌードも撮りたい”などと条件を付け足すことができません」
日本でも「やっぱりやりたくない」と言うことは可能だ。ただし、日本では契約を交わす文化が根づいていないうえ、「ノー」と言いづらい環境に俳優たちは置かれている。
「アメリカではノーと言われたときのために、最初から代役が準備されていることもある。でも日本の現場は予算も時間も限られていて、代役は常には準備されていません。ヌードを条件にオーディションに合格したけれど、途中で“やっぱりできない”となれば、“ヌードありきで受けたのに、いまさら何を言うの?”という空気がどうしても出てくる。“ノー”と言いやすい、アメリカのようなシステムを作るべきです」