番組で女性は「術後も生理不順が続いている」と訴えていたが、甲状腺乳頭がんとは別の原因があるか、または「一般論ですが、がんと診断されたことや手術を受けたことによるストレスが原因かもしれません」(高野医師)という。
そもそも同番組内では、「甲状腺がんとはどんな病気か」という説明もなかった。一般に「がん」と聞くと、治るのが難しく、命に関わる重病と思い込みがちだが、実は甲状腺がんは他のがんと性質がずいぶん異なる。
甲状腺がんにはさまざまあるが、全体の90%を占めるのが甲状腺乳頭がんや甲状腺濾胞(ろほう)がんなどの「分化がん」である。しこり以外の症状が出るのは稀で、進行が非常に遅く“ほとんど死なないがん”といわれる。
環境省「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」が参考資料として公開している「甲状腺微小癌」(宮内昭医師提出)では、他の病気が原因で亡くなった人(高齢者が主)の甲状腺を調べると、日本では11.3〜28.4%(徳島、岩手、仙台で調査)の人に甲状腺がんがみつかったと紹介されている。症状がなく進行が遅いので、甲状腺がんに気づかないまま、別の原因で寿命を迎えるケースが多いようだ。
一方、危険な甲状腺がんもある。「未分化がん」は、甲状腺がん全体の1〜2%程度に過ぎないが、進行が非常に速く死亡率が極めて高い。他に「低分化がん」や「髄様がん」などがあり、これらも全体の1〜2%程度で、悪性度は分化がんより高い(がん研有明病院 がんに関する情報「甲状腺がん」などを参照)。
甲状腺検査の何が問題か
チェルノブイリ原発事故(1986年)の後、数年後からウクライナやベラルーシで小児甲状腺がんが増えたことを受けて、福島県では原発事故後、18歳以下の38万人を対象に5回にわたって甲状腺検査を実施している(実際に検査を受けたのは約30万人)。福島県県民健康調査課によると、2021年9月30日時点で甲状腺がんと診断されたのは274人で、手術を受けたのは227人だった(県外での検査は含まない)。手術を受けた人のうち、未分化がんは1例もなく、低分化がんが1例のみ。乳頭がんが223例、濾胞がんが1例、その他のがんが1例である。乳頭がんと濾胞がんで99%を占めている。