しかし、一般にがんの治療では「早期発見・早期治療が大事」とされている。子供のうちに甲状腺がんをみつけて治療することは過剰診断になるのか。この疑問に高野医師が答える。
「ウサギとカメの童話になぞらえて、小児甲状腺がんは“昼寝ウサギ”と呼ばれています。子供の間はがんの成長が早いのですが、大人になると成長が止まり、一生悪さをしないことが多いからです。
しかし、福島で甲状腺検査を始めるまで、小児甲状腺がんが確認されること自体極めて稀で、そうした事実がまだわかっていなかった。甲状腺がんの診療ガイドラインは大人の症例を対象に作成されているため、子供でもがんがある程度のサイズになっていれば手術適応になってしまいます。大人に対する治療を子供に無理に当てはめたため、過剰診断が起きていると考えられます」
小児甲状腺がんは子供の頃に大きくなるが、そのまま大きくなり続けることは少ないという。甲状腺疾患専門の隈病院(神戸市)の宮内昭名誉院長が2019年1月に発表した論文では、成人を含むデータだが、甲状腺がんの手術をせずに約10年間、経過観察を続けると、患者の57%はがんの大きさが変わらず、17%は逆に小さくなったとしている。【後編に続く】
◆取材・文/清水典之(フリーライター)