中国企業の動揺

 2人の予測通り、ロシア軍はウクライナ軍の反撃に遭い、戦争は長期化している。欧米諸国が軍事支援しているウクライナと違って、制裁を受けるロシアの軍需物資の生産は滞っている。今年2月の首脳会談で、「限界のない友好と協力」を約束したプーチンにとって、習の支援は喉から手が出るほど欲しいはずだ。

 ロシアと取引がある中国国有企業幹部が、ロシアへの支援の現状について指摘する。

「友好国であるロシアが経済的に疲弊しているのだから、中国として支援をするのは当然のことです。欧米による制裁によって、ロシアが入手しづらくなっている物を中心に積極的に提供しています」

 ここで、ロシアによるウクライナ侵攻前後の中ロ間の貿易状況をみてみよう。中国政府の統計によると、侵攻後の3月の中国からロシアへの輸出額は前月と比べると総額では減っている。ところが、トラックは1.7倍、工業製品にいたっては2.5倍に急増している。この国有企業幹部が続ける。

「ロシア側は戦況が厳しくなるにつれ、兵器などの軍需品の支援を求めています。しかし、中国の政府や企業は慎重姿勢を崩していません。欧米諸国による経済制裁に巻き込まれれば、甚大な損害が出るからです」

 中国側が警戒をしているのが、ロシア側と取引をした外国企業や外国人も罰する「二次的制裁」が中国企業に適用されることだ。中国の通信会社、華為技術の副会長が2018年12月、米国の要請を受けてカナダで身柄を拘束された際の容疑も、イランとの取引を巡る制裁違反だった。今回のウクライナ戦争を巡って、ロシアの同盟国のベラルーシに対して、米国などが「二次的制裁」を科している。

 だが、中国側が恐れていた事態へと発展した。バイデン米政権は6月28日、ロシア軍を支援したとして、中国の電子部品メーカーなど5社に事実上の禁輸措置を科すと発表した。今回の中国企業への制裁について、米商務省幹部は次のように警告する。

「ロシアによるウクライナ侵攻後も、ロシア軍などに製品の供給を続けた。ロシアを支援すれば、米国との関係を断ち切るという強力なメッセージだ」

 中国の貿易総額は世界最大の年間6兆ドル(約830兆円)に上り、世界中でサプライチェーン(供給網)を展開している。中国が経済制裁を受けるダメージは、ロシアの比ではない。前出の中国国有企業幹部は言葉を選びながら、政府の対応を批判する。

「中国政府はしっかりとバイデン政権と協議をして、米側のレッドライン(越えてはならない一線)を探っており、制裁を避けられるとみていた。しかし、このままでは米国による制裁が広がるのは必至で、中国企業の間でも動揺が広がっています」

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