JR日光駅貴賓室。大正天皇の椅子(時事通信フォト)

JR日光駅貴賓室。大正天皇の椅子(時事通信フォト)

宮内庁・JRの一覧に掲載がない「貴賓室」

 JR東日本や宮内庁は全国各地の鉄道駅に設置された貴賓室を一覧としてまとめている。それらのリストには、日光駅・軽井沢駅・東京駅・沼津駅・京都駅・桃山駅・二条駅・広島駅・門司港駅など、御用邸や離宮が所在するなど皇室とゆかりの深い駅、行幸啓で立ち寄ったことがある駅が並んでいる。

 その一方で、今回のバックヤードツアーで一般公開される東武浅草駅は貴賓室があった駅としての記載は見当たらない。繰り返しになるが、貴賓室は天皇皇后陛下および皇族の使用だけに限定されていたわけではない。首相や海外からの賓客などの利用も想定していた。しかも貴賓室の厳密な定義はないので、JR東日本や宮内庁が把握していない貴賓室の存在も十分に考えられる。

 いずれにしても、このほど東武がバックヤードツアーで公開する東武浅草駅の貴賓室の存在は知られてこなかった。ゆえに、学術的な研究が進む可能性をも秘めている。

 東武は1929年に日光特急の運行を開始。その際、トク1形という車両を製造している。トク1形は、皇族などが乗車する貴賓専用車としての利用を想定していた。

 日光には戦前期に田母沢御用邸があり、太平洋戦争中に戦火が激しくなると皇太子(現・上皇)の疎開先にもなった。東武と日光のゆかりは深く、それゆえに東武浅草駅に貴賓室が設置されていることは不思議な話ではない。

「資料が残っていないので東武浅草駅にある貴賓室が当初から存在していたのか、それとも途中で新たにつくられたのかは判然としません。貴賓室というプレートが掲げられているわけではありませんが、社内では高貴な内装や調度品などから長らく貴賓室と認識されてきました。普段、貴賓室は使用されていませんが、打ち合わせなどで使用した可能性はあります」(同)

 固く扉を閉ざしていた東武浅草駅の貴賓室は、歳月を経てバックヤードツアーとして一般公開されるが、他方で全国各地につくられた鉄道駅の貴賓室は老朽化により解体される危機が迫っている。

 実際、いくつかの貴賓室は建て直しの際に廃止されている。現存している貴賓室も、長らく使用されないために今後の扱いは不透明とねっている。

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