京王線・井の頭線の全線が1か月乗り放題というのは、かなりお得な設定のように思える。この価格設定については、「わかりやすい価格にしたかった」(京王電鉄広報部)という理由で、そのために一律料金が設定されている。
京王はコロナ禍で外出機会が減っている高齢者のためを打ち出しているが、同パスがコロナ禍によって減少した鉄道需要を補う意図を含んでいることは言うまでもないだろう。それでは、なぜ70歳以上に設定したのか? という質問に対して、「企業の定年延長で、まだ60代は通勤している人も多いから」(京王電鉄広報部)という回答だった。
また、コロナで外出機会が減少しているとのことだが、「シニア全線パス」の利用者が通勤・通学時間帯に乗車したら、逆に混雑率は増してしまう。混雑率が上がれば、コロナが感染拡大しかねない。しかし、「シニア全線パス」は特に利用時間に制限を設けていない。
「『シニア全線パス』は、まだ試行段階です。10月から12月までの期間限定で導入して、その評判などを考慮して4期・5期についても検討します」(京王電鉄広報部)
高齢者を対象にした全線の乗り放題パスは、京王だけの独自な取り組みではない。東急電鉄でも、2021年11月1日にシニア層を対象とした電子乗車券「東急線乗り放題パス」を発売した。同乗車券は1か月間2000円で東急全線の乗車が可能で、over60という名称からも窺えるように60歳以上を対象にしていた。
「『東急線乗り放題パス(over60)』は新型コロナウイルス感染症拡大による外出自粛の長期化により二次的な健康被害が懸念されていたシニア層に対して、鉄道サービスを通じて外出や人との交流の一助となることで、東急線沿線にお住まいの方の健康促進に貢献し、豊かで充実した暮らしにつなげていくことを目指し、限定的に発売したものです」と説明するのは東急電鉄株式会社CS・ES推進部広報CS課の担当者だ。
京王が70歳以上を対象年齢に設定したのに対して、東急は対象年齢を60歳以上と設定。その理由は「定年退職される方も多く、その後も日常的に鉄道を利用した豊かで充実したセカンドライフを送る一助となることを期待した」(東急電鉄株式会社CS・ES推進部広報CS課担当者)からだという。こちらは1000名を上限にしていたが、想定を上回る約3800人が応募に殺到した。
シニアだけでなくキッズ向けも
京王も東急も、高齢者の外出機会が減少していることを憂慮してシニアパスを企画したが、両社は公共性・公益性が高い鉄道事業者とはいえ民間企業。大義名分を掲げていても、そこに利益を見出せなければ、こうした施策は打ち出せない。逆に、こうした施策を打ち出したことは高齢者が外出を控えたことで京王・東急の鉄道需要が減退したことを示唆している。