そして、それは沿線の商業施設にも大きな影響を与え、売上の減少などを引き起こしたことは想像に難くない。私鉄は自社沿線に百貨店やスーパーといった系列の小売店を出店しているから、鉄道の需要減は系列の小売業の売上減少にも及ぶ。それは鉄道会社にとって危機ともいえる事態だ。
また、私鉄は鉄道事業と並び不動産も大きな収益の柱となっている。私鉄が保有する不動産は鉄道利用者が増えることで価値が向上するから、需要減は回り回って私鉄が保有する不動産価値を目減りさせることにもつながる。
今年、初めての試みだという「全線シニアパス」を発売する京王は、まだ手探りの状態だろう。一方、昨年に「東急線乗り放題パス」を発売した東急は、大きな手応えを感じたに違いない。当然ながら再び同じような企画乗車券が発売すると考えるのが自然だ。
しかし、東急は第2弾として2022年6月18日から8月28日までの土日限定で使用可能な「東急線キッズ100円パス」を発売した。同パスは購入日に限り小学生が100円で東急線を1日自由に利用できる磁気乗車券となっている。
第一弾は高齢者を対象にしていたのに、どうして第2弾で小学生へと企画の内容を変えたのだろうか?
「東急はアフターコロナに即した社会的価値の持続的提供を目指し、域内移動需要の創出を目的としたあらゆる人、目的に応える鉄道サービスの実現を目指しています。そのため、企画内容を変えたという認識はありません。今後もさまざまなお客さまに対して最適なサービスを提供できるよう検討を進めていきたいと考えています」(東急電鉄株式会社CS・ES推進部広報CS課担当者)
2020年から感染拡大したコロナ禍は、予想以上に長期化した。当初、一年程度でコロナは収束するとの見方もあった。しかし、いまだコロナは収束していない。
交通事業者は一年だったら何とか耐えたことだろう。しかし、3年目ともなると静観というわけにはいかない。
現在のところコロナは第7波となり、岸田文雄首相も感染した。コロナ禍が完全に収束する気配は見えず、気を緩めれば第8波、第9波になることは間違いない。
そうなれば、経済にも大きな影響が出るだろう。特に、移動需要が減退している昨今、鉄道事業者は気が気ではないはずだ。
今後、東急や京王のように需要の掘り起こしに努める鉄道事業者が続出する可能性は高い。