「2か月間でみるみるこうなったの。お腹の下の方がずーっと鈍く痛いし、どう考えても普通じゃない。それで嫌々、婦人科検診に行ったら、『激しく体をねじるような動きをしないでください。腫れた卵巣が破裂するととても危険な状態になります』と言われたのよ」
そしたら……考え方の違う人って面白いね。彼女、嵩に懸かったように声のトーンを上げて、「だから、そこよ! なんで1つの病院の1人の医者の見立てを信じるの? セカンドオピニオンって知ってるよね?」と、こうきた。なので、「ふーん、K子さんならお腹に爆弾を抱えながら、病院巡りをするんだ?」と言うとそれには答えず、スマホをいじりながら「ハイッ」とある画面をパッと見せて、「この病院の先生が、手術をしないで抗がん剤も使わないでがんを治しているのよ」と歌うように言うの。
「ふーん。でも卵巣の腫瘍が良性か悪性かどうかは、手術して摘出して病理検査をしないと正体がわからないんだよ。だから手術は必須で、腹腔鏡手術じゃダメ、って○○大学付属病院で言われたけど」と私は再度反発した。
「あ、その○○大学付属病院、最悪よ。ネットの評判、見た? アラ、見てないの? だいたいさ、大学病院って診察のとき、その様子を学生に見せるんでしょ? 要は、患者は実験台、モルモットの代わりじゃない!」
K子さんのただただ一方的な攻撃に戦意喪失した私。あぁ、そっか。ボタンの掛け違いというけれど、私はボタンだと思ってかけようとしたらスナップボタンだったのね。これ以上、話をしてもムダなんだよね。
「診察の様子を見せて、学生の研修にしてもいいかどうか聞かれたよ。私は二つ返事でOK。見学診察のときは事前に話してくれるというし、こんな体が次の世代の医学の役に立つなら、どうぞどうぞ、だよ」
「ええ〜ッ、恥ずかしくないんだ?」とK子さん。あれ? そこですかい!?
「婦人科検診はイヤ。内診台にのるのは絶対にイヤ」っていう気持ちは、たしかに検診前の私も持っていた。でも、そこにこだわっていると事態をどんどん悪化させちゃう。
「そうそう、恥ずかしいって気持ちも最初はあったよ。でも、内診台にのるのがイヤで婦人科検診を一日延ばしにしているうちにステージIIIになっていた、っていう人は珍しくないらしいよ。卵巣は特に症状が出にくいから」と言うと、K子さんは目を逸らしている。あれ? 聞いてる?
K子さんだって自分のお腹が膨らんだら、きっと私と同じように普通に診察を受けて、すすめられるままに大学病院で精密検査を受けたと思うな。
まぁ、なんでも“慣れ”よ。イヤだった内診台も、いまでは担当医と話しながらのってるよ。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2022年12月8日号