「心不全」を早期発見
では実際の暮らしはどのようなものなのか。
「ヘルスケアコアシステムでメインに使うのはタブレット端末1台です。使い始めにまずバイタル(血圧、脈拍、体温)を1週間続けて測定します。そうするとデータは自動送信され、ご自分の『基準域』が設定されます」(同前)
基準域が設定されたら、定期的に週に数回、バイタルを測定すれば健康リスクを赤・黄・緑で示してくれる。食事や運動の内容、服薬状況について入力する画面もあり、健康に関する情報を一括して「見える化」できる。
同時にタブレット画面には各部屋の温度や湿度が表示され、適温ではない部屋があると、赤字で警告表示が行なわれる。この指示に従って冷暖房を調節することで、適切な環境を維持するという仕組みだ。
さらに毎月1回、バイタルに関する「ヘルスレポート」が作成され自身の健康状況が把握できる。
同システムの肝と言えるのが、居住者の健康に対する温熱環境や運動・食事管理の効果を、バイタルという形で“見える化”してくれることだ。
「これまで介護施設で1年間検証した結果、AIの『赤(警告)』が表示された入居者で、実際に入院や服薬が必要だったのは97%と非常に高確率でした。特に高齢者になると自覚症状が出にくく、バイタルが先に動くことが多く見られます」(前田社長)
70棟の実証実験では、80代の男性Aさんにこんな“異変”が起こった。実験開始から3年後のある日、Aさんの自宅のタブレット端末に初めて「赤」の警告が表示された。しかし、Aさんはまったく自覚症状がなかったという。
同社が医療機関への受診を促したところ、「心不全」が早期発見された。カテーテル治療により1泊で退院でき、ことなきを得た。
谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎)は、このシステムを評価する。
「高齢者にとって自覚症状が出にくい血圧や脈拍を自宅でモニタリングする意義は大きく、住宅内の寒暖差によるヒートショック予防にも役に立つ。バイタルサインに異常が出た時の早期発見に加え、健康意識を高めるメリットもあると思います」