変化球中心のスタイルに変えたワケ
そして、WBC決勝と重なり、わずか7000人の観衆だったのが22日の「光(山口)対彦根総合(滋賀)」の初出場校同士の一戦だ。
観衆の気もそぞろなこの試合で彦根総合打線に3安打しか許さず、11三振を奪って完封したのが光の升田早人だ。直球でグイグイと押す強気のピッチングで、前日の第1試合同様、試合時間は2時間を切った。終了した時、世界一に挑んでいた侍ジャパンのマウンドには巨人の大勢が立ち、ブルペンにはダルビッシュ有や大谷翔平が登板に備えていた。
3回戦では優勝した山梨学院に敗れたものの、升田は直球で押した初戦とは真逆といえる、変化球中心の投球スタイルを聖地のマウンドで披露した。
「今日は気温が低かったので、もしここでケガをしてしまったら夏に響く。無理してスピードを出すというよりかは、変化球を中心にしてキレと質を重視しました」
8回途中でマウンドをおりる時には、升田を労う万雷の拍手が送られた。
「あれは慰めというか、『よく頑張ったね』という意味合いの拍手だったと思う。夏は『おめでとう』という歓喜の拍手にしたい」
堂々の甲子園デビューを飾った升田は、大会後には前述の森岡と共に、高校日本代表候補に選出された。日本のトップ選手が集まる合宿での刺激が、升田を一回り大きな投手へと成長させるはずだ。
センバツが開幕したのは3月18日。前々日に侍ジャパンは東京ドームでの準々決勝でイタリアを撃破し、スポーツニュースも準決勝以降への期待や展望を報じるものばかりになっていたタイミングだ。
そんななか、大会初日の第2試合に登場した高知高校の背番号「17」、2年生右腕の辻井翔大もまた、“平時”ならばもっと注目されておかしくない投手だった。
豊富な高知高校の投手陣にあって、昨秋は主に中継ぎとして5試合に登板。同校の濱口佳久監督は、一冬をこえ、スピードが140キロに達して成長著しい辻井に初戦のマウンドを託した。辻井にとって、この試合が公式戦初先発だった。
その緊張からか、初回は変化球が上ずってコントロールが定まらず、辻井は対戦相手の北陸(福井)に先制を許した。しかし、2回に自身のタイムリーで逆転に成功すると、その後はすいすいすいと8回途中まで投げて、勝利投手に。4対1で初戦突破した。