挑戦しないのはもったいない
和田:ぼくは「いやなことを我慢せず、好きなことをして遊びましょう。高齢期を楽しみましょう」という方向で老後を考えるのですが、若者にしても高齢者にしても、いまの人たちは全然遊ばないんですよ。
坂東:何をしているのかしら。
和田:一日中、ぼやっとスマホをいじっているとかね。たらたらと暮らす=遊ぶではないんですけどね。
坂東:なるほど、遊ぶというのは、何もせずにぐうたらのんびり暮らすこととは違うわけですね。
和田:高齢者のかたには、何かに本気で没頭することが大事だと言っています。定年しました、子供が手を離れました、と自分の時間ができたときにそんな調子でぼんやり過ごすのは非常にもったいない。
坂東:私も、時間を持て余すことが高齢者にとっていちばん不幸なんじゃないかと思います。私が昭和女子大学へ移ってまもなく、68歳の男性が大学院へ入ってこられたんです。彼は海外での駐在経験もあって、アメリカでは女性たちがいきいきと活躍して重要な地位に就いているのに日本では少ないのはなぜか、その理由が知りたいという動機からでした。
和田:好奇心に従って勉強するのはとてもいい時間の使い方ですね。
坂東:私のゼミに入って、唯一の男性で最年長として仲間と共に勉強に励み、71歳で修士論文を書き上げました。すると勉強がこんなに面白いとは思わなかったと目を輝かせ、さらに高レベルな博士課程へ進んだんです。未知の分野に触れて好奇心が膨らみ、70代でさらなる学びの意欲と楽しみが得られたんですね。
若い頃の勉強とは違って時間をかけて知りたいことを知る勉強は、自分へのチャレンジとして刺激的です。
和田:ぼくは国際医療福祉大学で臨床心理学の教員をしていて、大学院を受け持っていたときには定年退職後のビジネスマンが年に2〜3人いましたよ。人事部で社員の相談に乗ってきた人などが心理学を学んでみたいと入ってこられる。大学院では濃密に学ぶこともできて満足度も高く、資格を取る機会なども得られます。授業料は安くありませんが、挑戦する価値は大いにあると思います。
坂東:同感です。ところが、特に女性の場合は自分に投資することをためらう傾向がある。子供の教育費にはお金を惜しまなかった人も、自分のこととなると、高い授業料を払うのはもったいないわって。「もう年なんだからいまさら」と、新しいことに挑戦しないことはもったいない。そんなふうに過ごしているとどんどん縮こまって、縮小再生産の一途を辿るのではないかと心配です。
和田:年を取って頭がかたくなってしまっているんですよ。そういう人は医者にも多いですよ。理屈通りに人間はなると、思い込んでいる。