「私は困難に直面したら、それは自分の限界が試されているのだと考えるようにしています」

「私は困難に直面したら、それは自分の限界が試されているのだと考えるようにしています」

坂東:日々あれほどたくさんの患者さんを診ていらっしゃるのに、一人ひとりの顔を見ないで、数値を見て判断してしまうのですか。

和田:そこが医者の頭がかたいところです。高血圧、高血糖は悪とされていますが、実際はやや太めの体形やコレステロール値高めの方が長生きをしていたりする。医者の想定と逆の結果が出る例がたくさんあるんです。だからひとつの型に当てはめようとしても無理なんですよ。

坂東:検査数値を正常にすれば誰もが健康になるわけではない、と。

和田:ええ。高齢者は、マスコミなどでも年齢で区切られて勝手に一緒くたにされていますけれど、実際は年を取ってからの方が個人差は開きます。同じ70歳でも、寝たきりの人もいれば市民マラソンでがんがん走っている人もいて、若い頃より幅が広がるものなのです。

坂東:平均値が通用しないのが高齢者である、ということですよね。

和田:だからこそ、「もうこんな年だし」と年齢にとらわれず、とりあえず挑戦することにも意味がある。ぼくは高齢者でいちばん怖いことは、意欲の低下だと考えているんです。なぜならば、加齢とともに老いていく場合は意欲の減退が引き金となって一気に老化が加速していくからです。

坂東:私自身もそこに危機感を覚えて、年を重ねることに不安だった自分と、同世代の皆さんを励ますために書いたのが『70歳のたしなみ』なんです。失った若さや体力を数え上げて「“もう”70歳だから“いまさら”何をしても遅すぎる、“どうせ”成果は得られない」と考えると、何も始められなくなってしまいます。

 でも本当は、70代になっても、まだまだ自分は不完全で未完成で、のびしろはまだ残っている。自分の可能性を狭めたりエネルギーを抑えることなく、高齢期を楽しみながら、意欲的に成長していきたいと願っているのです。

和田:その分岐点が70代。意欲の低下の一因は、脳の前頭葉の衰えなんです。前頭葉は意欲や思考、創造にかかわり、実は40代ぐらいから萎縮が目に見えてくる。物忘れや知能低下よりもはるかに早く衰え始めます。

 それをカバーすべく意識して意欲的に生きなくてはいけないところを、年を取ったからと自ら縛りを作るのはよろしくありません。

【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、国際医療福祉大学大学院教授、ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』は’22年の年間ベストセラー総合第1位(トーハン・日販調べ)に。

坂東眞理子(ばんどう・まりこ)/1946年富山県生まれ。昭和女子大学総長。東京大学卒業後、総理府入省。内閣広報室参事官、埼玉県副知事などを経て、1998年に総領事に。2001年、内閣府男女共同参画局長を務め2003年に退官。2004年に昭和女子大学教授、同大学女性文化研究所長。2007年に同大学学長、2014年から理事長、2016年から総長。2006年刊行の『女性の品格』は330万部を超えるベストセラーに。

構成/渡部美也 撮影/浅野剛

※女性セブン2023年5月11・18日号

 

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