当時、『ティーンズロード』には日本全国のレディースたちの姿が掲載されていたが、その読者は意外にも“普通の女の子”たちだったと比嘉さんはいう。
「そもそも日本に18万人もヤンキーはいませんから(笑い)。読者の多くは、強くて自由に生きているように見えるレディースたちに憧れながらも、その周辺で悶々としながら生きている社会や学校から少しはみ出た“普通の子”だった」
特攻服少女たちに憧れた読者は、グラビアに君臨する彼女らの姿を目に焼き付けながら、抱えている悩みや苦しい胸の内をしたため、読者投稿欄に送っていた。
「巻頭のグラビアは派手だから目立つけれど、実はそれほど多くない。雑誌の大半はモノクロのページの読者投稿で成り立っていたんです。進学の悩みからいじめや中絶、自殺未遂などかなり重い内容も少なくなかった。当時まだ世間にはほとんど知られていなかった摂食障害の女の子からの手紙が来たこともあって、その時は誌面に2ページを割いて掲載しました」
その少女の手記には多くの読者から励ましや共感の投稿が届き、比嘉さんはそうした声を誌面に掲載した。
「投稿に対して多くの反響が寄せられ、そうした声がまた活字になり、読者同士が意見を交換し合うというスタイルは誌面に独特の緊張感を生んだと思います。また、レディース総長が読者の悩みに直接回答する『人気総長の公開質問コーナー』も人気があったページでした」
本書には実際の「公開質問コーナー」の内容も多数収録されている。その一つを抜粋する。
《Q 私は中3の女です。今受験なんですが学校面白くないんです、本当は暴走族も入りたいし、でもそんな勇気もないんです。どうしたらいいでしょうか? (神奈川県 Y)
A 本当にやりたいんだったら自分の思う事をやればいいんだよ。じゃないと後で絶対 後悔するから。でも受験するのもダサいことじゃないから、今は受験しな (金沢市 3代目総長 T)》
「質問を送って来た読者が満足したであろうことはもちろん、総長たちも雑誌上では人気者とはいえ、世間一般からは良く思われていなかった。だから読者が自分たちに悩みを寄せてきて、それに回答することで、読者たちが少しでも救われるということに対してやりがいを感じていたように思えます」
レディースにとっても、“普通の子”にとっても『ティーンズロード』はかけがえのない居場所だったのだ。
◆比嘉健二(ひが・けんじ)/1956年、東京都足立区出身。1982年にミリオン出版に入社。『SMスピリッツ』などの編集を経て、『ティーンズロード』『GON!』などを立ち上げる。現在は編集プロダクション『V1パブリッシング』代表。本作で第29回小学館ノンフィクション大賞受賞。