「潤(ルン)」と呼ばれる社会現象

 豊洲の不動産会社代表は、チャイナタワマンの住人についてこう言う。

「2か国語や3か国語は話せるのが当たり前というハイスペックな方が多く、その上、出勤前に毎朝ジムに通うなどセルフコントロールのできる人が目立ちます。仕事終わりに飲みに行くことはあまりなく、一緒に食事したり、車で送り迎えを積極的にしたりと家族の時間を大切にしている」

 豊洲には中華食材スーパーやガチ中華を出す店は決して多くないが、彼らにとってそれらは至近距離にある必要はない。

「ビジネスで日中間を頻繁に行き来している人が多いので、ガチ中華店が近所になくても、あまり困らないようです。数か月おきに母国に帰ることができるので、留学生や技能実習生とは生活スタイルが根本的に異なります。豊洲周辺はインターナショナルスクールも多く、教育熱心な中国人富裕層にとって、住環境としての満足度は高いようです」

 中国エリート層の間では近年、先行き不透明な中国社会を懸念し、海外に脱出する「潤(ルン)」と呼ばれる社会現象が発生している。「潤」の発音記号が英語のRun(逃げ出す)と同じことから生まれた隠語だ。海外移住を目指す中国人富裕層にとって、豊洲はその格好のターゲットと映る。前出の舛友氏が言う。

「不動産市場が頭打ちとなっている中国国内よりも、価格上昇を続けている豊洲エリアのタワマンを買ったほうが賢明との判断があります。中国人富裕層の間で、豊洲人気はしばらく続くでしょう」

 ハイクラス中国人による新チャイナタウンが日本各地に広がっていくのだろうか。

【プロフィール】
西谷格(にしたに・ただす)/1981年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト、ライター。地方紙『新潟日報』記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポート。著書に『香港少年燃ゆ』『ルポ 中国「潜入バイト」日記』など。

※週刊ポスト2023年9月29日号

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