大女将・お庚役の小泉今日子には、特別な思い出があるようで、特に饒舌だった。
「僕は若いときめちゃくちゃお世話になってて。初めて出演した連続ドラマ『まだ恋は始まらない』でご一緒しました。僕は本当に1時間にワンシーンくらい、もうちょっと出てたかな、坂井真紀ちゃんに恋い焦がれる役。もう何十年も前ですね、デビューしてすぐで、すっごい緊張しました。それまでテレビで観ていたキョンキョンですよ? 今回撮影中に、そんな話もしましたね。
あとキョンキョンから17年前にもらったTシャツがあるんですが、本当にキョンキョンからもらったのか忘れてしまって。そういうことってあるじゃないですか。あまりに昔のものって、本当にその人からもらったのか忘れちゃうパターン。でももしもキョンキョンじゃなくてもいいやと思って、『これ、キョンキョンくれたんですか?』って聞いたの。
そうしたら僕の舞台を見に来てくれたときにくれたものだそうです。キョンキョンもちゃんと覚えていてくれたんです。それで17年ぶりにサインもらいました。その柄がまた今回の格之進の役柄にぴったりで、左下に燕が飛んでて。今度見せてあげるね」
草なぎにも、“先輩アイドルを前に緊張”なんて時代もあったのだ。さらに、この映画について発した言葉にハッとさせられた。
「これを機に僕もステップアップしていきたいと思います」
これがデビュー間もないタレントのコメントだったら、聞き流してしまったかもしれない。が、芸能生活35年以上のキャリアをもちながら、「ステップアップしていきたい」という言葉が自然に出てくる草なぎ剛、おそるべし。
「映画でもなんでも、毎日コツコツやるしかないけれど、いつか振り返ったときにその努力が大きな結果を生むと思う。コツコツ人生の貯金をできればいいと思っているので、みなさんとのご縁あってですから、こうしてちょっとずつ一緒に人生を歩んでいけるといいなと思います」
“コツコツ”“努力”。若い頃はそれが必要とさんざん言われてきたけれど、年を重ねていくうちにもう今さら遅いとあきらめ忘れていく・・・・・・。でも草なぎにとっては、“毎日コツコツ”は今だって当然のことなのだ。決して錆びない草なぎの魅力は、そんな心持ちにあるのかもしれない。
舞台挨拶中は自身のことを「つよぽん」と呼び、天然な姿を逆にネタにして観客を笑わせる。
『ミッドナイトスワン』では、儚さが胸を打つトランスジェンダー女性、『碁盤斬り』では気骨ある武士、さらに10月2日からスタートするNHK連続テレビ小説『ブギヴギ』では、戦後の大スターを育てる作曲家を演じる。どんな人物像を見せてくれるのか、楽しみだ。
取材・文/和久井香菜子、撮影/浅野剛