中原(右)に米長邦雄が挑んだ第35期名人戦(1976年)

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中原誠と「ツルマルボーイ」

 中原さんとはいまも定期的に、親しい業界関係者を交えた会合を開いている。温厚な人柄はまったく変わらない。

 将棋界には名人位を5期以上保持した「永世名人」と呼ばれる人が何人もいる。木村義雄、大山康晴、谷川浩司、森内俊之、羽生善治……でも僕にとっての「名人」はやはり中原さんだ。だからそのときに誰が名人であっても、僕は中原さんを「名人」と呼ぶ。

 20代半ばで将棋界のトップに立った中原さんは、まさに棋界のプリンスだった。同じ高柳敏夫門下の兄弟子だった芹沢博文・九段は、若きエースの中原さんを面倒事から守るために筋の悪い酒席には行かせず、自分が代わりに参加したという。そのせいか酒量が増えた芹沢さんは、51歳の若さでこの世を去ってしまった。

麻雀卓を囲む若き日の中原誠(左)と桐山清澄

麻雀卓を囲む若き日の中原誠(左)と桐山清澄

 2003年の年末、作家・渡辺淳一先生の主催する忘年会で中原さんに話しかけられた。

「弦巻さん、有馬記念の話です」

 何事も自然体、バランス型の中原さんは、幅広い趣味を持っている。クラシック音楽をたしなみ、囲碁は強いし、競馬も知っている。

「ツルマルボーイ、ちょっと弦巻さんと似た名前の馬がいるんですよ。試しに買ってみようと思うのですが、乗りませんか」

 競艇はマニアの森雞二さんからレクチャーを受けたが、競馬はそれほど詳しくない。しかし中原さんの誘いなら、当然ノータイムで受ける。

 有馬記念当日、中原さんから電話がかかってきた。

「いや、天気の関係でね。馬場状態が変わるので、買う馬を変更することにしました。一応、買い目をお伝えするので控えてもらえますか」

 わざわざ事前に連絡してくれるのだから、なんとも律儀な名人である。テレビを見ていたところ、馬券は見事的中。思わぬ大金を手にして小躍りした僕のなかで、中原名人は「神」に昇格した。ツルマルなんとかの着順は、もはや覚えていない。

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