応援団精神は、『この一点への旅』でも全開である。作品の一番の見どころ、他の人はともかく自分は絶対にここが好き、というポイントが熱く語られている。
本に取り上げられているのは47都道府県の62施設。縄文土器や埴輪もあれば、平安時代の仏像、専門である室町時代の日本画はもちろん、現代の山口晃にいたるまで、工芸や写真も取り混ぜて、北から南へと、地方ごとによりすぐりの「この一点」が紹介されている。
「直球と変化球をどう織り交ぜるかというのはかなり考えましたね。ド直球もあれば、こんなの誰も知らないだろうというのもあります。個人的に思い入れのある、衝撃を受けた作品もずいぶんありますし、これは外せないだろうという正統派の作品も選んでいます。青森なら棟方志功、岩手は萬鐵五郎。中尊寺の金色堂内陣諸尊なんかも直球ですね。宮城県美術館の長谷川潾二郎は知る人ぞ知る画家で、彼の猫の絵がぼくは大好きなんですよ。20歳超まで生きたうちのウニちゃんそっくりなんです」
大学キャンパスで拾って連れ帰ったというウニちゃんの写真も掲載されている。自宅で緋毛氈を敷き寝かせて撮ったウニちゃんの写真は、ポーズといいキジトラの毛並みといい潾二郎の『猫』そのもので、絵のモデルだと言われたらうっかり信じてしまいそうだ。
何十回と見てるのに、見るたびに「小さいな」と思う
美術館で現物を見ることの大切さは、何といってもスケール感を味わうことにあるという。
「木村武山の『阿房劫火』(茨城県近代美術館)なんて横2メートル40センチもあってすごい迫力です。本で見るとき、ふつうはサイズなんてほとんど気にしないじゃないですか。実物を見ると、こんなに大きかったの?ということもあれば、逆にこんなに小さかったの?ということがある。そういうのは実物に対面しないと体感できない。いい絵というのは頭の中で大きくなっていて、青木繁の『海の幸』(アーティゾン美術館)なんて壁画みたいに等身大で描かれてるぐらいに思われがちですけど、縦70センチしかないんですよ。ぼくは何十回と見てるのに、見るたびに『ああ、小さいな』と思います」
国立や公立の美術館、博物館だけでなく、地方在住のコレクターが集めた、こんなものがここに、というお宝的な「この一点」も紹介されている。
そうしたコレクターものの代表が、房総半島の白浜海洋美術館にある、200点近い万祝だ。万祝は漁師の祝い着だそうで、そうしたものがあること自体、ましてそれを集めた私設の美術館があることを知らなかった。