「個人が私財を投じてつくったすばらしいコレクションです。コレクションというのも、ある種の表現行為みたいなところがあって、(伊藤若冲のコレクターである)ジョー・プライスさんがいなかったら今のような若冲ブームはなかっただろうし、プライスコレクションが日本美術史を書き換えるきっかけにもならなかったと思います」
室町時代の『つきしま(築島物語絵巻)』(日本民藝館)や『針聞書』(九州国立博物館)など、「ヘタうま」として紹介しているのも、山下さんならではの切り口だろう。
「16世紀ぐらいにすでに、『ヘタうま』『キモかわいい』を愛でる感覚があったというのがすごい。こういうセンスは世界的に見て日本が一番早いと思います。『針聞書』は医学書ですけど、博物館ではこの中に出てくる『ぎょう虫』や『肺虫』をぬいぐるみやキーホルダーにして売っていて、結構人気があるみたいですよ」
授業のない日は1日10か所以上、美術館やギャラリーをはしごする。首都圏近郊の展覧会は基本的に全部見ることにしているそうで、見たいと思えば地方にもどんどん出向いている。
「地下鉄の600円で24時間乗り放題の切符を買ってあちこち回るんです。4回乗ればもとは取れるのでね。
わくわくする時間? いやいや結構、苦痛だったりもしますよ。だめだなと思うものも多いけど、何百人に1人、すごいやつがいたりするわけで、そうやって見つけたすごい才能を世に送り出すのがぼくの仕事ですから」
応援団精神は、こういうところでも発揮されるのである。
【プロフィール】
山下裕二(やました・ゆうじ)さん/1958年広島県生まれ。美術史家、明治学院大学教授。東京大学大学院修了。専門は室町時代の水墨画。故・赤瀬川原平さんと結成した「日本美術応援団」の団長として縄文から現代美術まで幅広く論じ、講演、展覧会監修などを通じて日本美術の魅力の発信に努めている。著書に『商業美術家の逆襲』『日本美術の底力』『日本美術応援団』(赤瀬川さんとの共著)、『驚くべき日本美術』(橋本麻里さんとの共著)、『私を美術館に連れてって』(壇蜜さんとの共著)など多数。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2023年10月26日号